2009年12月05日

フランス危機一髪! '07 <第四章>

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   第四章  ホテルはどこ???  

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順調に列車はAvignonへ向かう。

検札が回って来る。

あらかじめ、列車に乗る前にチケットを

『conposteur』に挿入して改札印を

つけておかないといけないのだ。

もし忘れると罰金徴収されるので、

銘子はもちろん済ませておいた。

 

Avignonまでは2時間半ほどの旅である。

学生時代に『旅行研究部』に属していて

北海道を周遊券で回ったり、

普通列車を乗り継いで九州まで行ったことがある

銘子なので、長い時間、列車に揺られることは

苦痛ではない。むしろ楽しい。

 

気がかりなのはAvignonでの乗り継ぎ時間が

10分程しかないこと。

どちらかにダイヤの乱れがあったら…

いやいや、杞憂に終わるよう、祈ることにする。

ともかく、携帯電話の充電ができないので、

電池が切れたら終わり。

 

Parisに戻るまで誰にも頼れない!

帰りの飛行機の運航状況なんて、どうやって

調べたらいいの???

でもまあ、まだ2日間もあるのだ。

ゆっくり考えればいい。

 

…ふと気になって鞄を探ると、

デジタルカメラの充電器は持っていた。

 

「よかった…」

 

疲れからか、銘子は軽く眠ってしまうのだった。

 

Avignonに到着した。

電光掲示板で確認したホームに向かう。

ホームにある掲示板には

その直前に到着する列車の情報しかない。

不安そうにきょろきょろしていたからか、

後ろにいたおじさんが

「どこまで行くの?」と聞いて来た。

 

Narbonneまでだと答えると

このホームで間違いない、と云ってくれた。

安心しながらも、掲示板を横目で確認するのを

銘子は忘れなかった。

 

無事に乗り換えもできた。

後はNarbonneに着くのを待つだけである。

 

席は向かい合わせの4人がけで

『SALLE』というものだった。

2人がけの座席が向かい合っていて、

その真ん中に長いテーブルが固定されている。

中央に向かって板が折り込んであるので

必要なときは手前に板を倒せば広いテーブルになるし、

乗り降りのときにはコンパクトに折り畳めばいいのだ。

 

先に座っていた20代の女の子二人連れは、

次の駅に着く前にテーブルに肘をついて

(固定しないとアイラインやマスカラが

 えらいことになる!)

しっかりメイクして、そして降りて行った。

 

てきぱきとあっという間に顔を作っていくのを

見ているのは面白かった。

(銘子の旅行中、こういう長距離列車内でしか

 この光景は見なかった。さすがに地下鉄では

 見かけなかった)

 

次の駅で残りの3席が埋まった。

銘子の正面には、真っ赤に染めたボブヘアーの

おねえさん。

その横にはさっきまで通路を挟んだ隣の席で

2人分占領して寝ていた黒ぶち眼鏡のおにいさんが

こっちへ移って来た。

実際にそこへ座る人が来たみたい。

 

銘子の隣には20代前半っぽい、やけに疲れた女の子。

列車が動き出してすぐに真っ赤なおねえさんが云った。

 

「マニキュア、塗っていい?」

 

全員が「ど〜ぞ」と云う。

まあ、化粧は勝手に始めるのだが、

マニキュアはにおいがするから

許可を求めたのだろう。

またこれも、さっさと手早く塗り、

乾くのを待たずに、すぐ器用に雑誌を読み出した。

 

Narbonneへは2時間弱で到着する。

銘子は持って来た文庫本を読みながら

列車に揺られていた。

 

あと10分でNarbonneに到着だと思ったら、

なぜか列車が減速を始めた。

そして駅ではないところで完全に停車した。

 

「え?」

 

列車内に『???』の空気が流れた。

と、そこへ車内放送が流れた。

 

「え〜、Narbonne駅で人身事故があったもようです。

この列車はここで最短1時間の停車をいたします〜」

 

どよめきが列車内に広がる。

 

「一時間?

 一時間って『最短』一時間でしょ?

 SNCFのことやし、いつになるんやら!」

 

真っ赤なおねえさんが云う。

 

「も〜最低〜っ!

 今日は友達の所為で列車に乗り遅れるは、

 やっとこれに乗れたと思ったら!

 私はいったいいつ、Toulouseに着くの????」 

 

不貞腐れた女の子が叫ぶ。

 

銘子も云う。

「私なんか、今日はストで飛行機は飛ばへんわ、

 列車に変更して、これやし!」

 

全員が苦笑いで云う。

「しゃ〜ないな〜」

 

ここから口々に、交通機関でいかに悲惨な目に

遭ったかの自慢大会が始まったが

銘子にはもうついていけない『早口の』話

(普通の会話速度だとは思うが)だったので

話の輪から外れて真っ暗な窓の外に目をやった。

 

「いったい、どれだけここに停まってるんやろう…」

 

最短で、と放送があった通り、軽く1時間が過ぎた。

それぞれが腰を延ばしにか、タバコを吸いにか

席を立って行った。銘子だけがそこに残された。

 

「いかん!」

Narbonneのホテルに更に遅くなると

連絡を入れなくては!

しかし、銘子の携帯は出来るだけ使いたくない。

緊急の事態の為に電源を温存しておきたい…。

 

通路を挟んだ隣の席にいたおねえさんが

携帯で話をしている。

やさしそうだ。…借りるしかない。

銘子が勇気を出して云うと、あっさり貸してくれた。

とにかく連絡はついた。

 

ホテルのおじさんは

『遅くなるのは構わないけど、表通りのドアは

施錠してあるから角の小道にある

小さなドアのチャイムを鳴らしてね』

と優しく云ってくれた。

 

もう、腹を決めて列車が動き出すのを待つばかりだ。

 

黒ぶち眼鏡のおにいさんは腹を決めて

線路沿いを歩いて駅まで向かうそうだ。

みんなが「がんばってね!」と声をかける。

 

真っ赤なおねえさんは、もっと人口密度の低い席を

見つけたのか、荷物を持って移動して行った。

 

銘子の隣にいた文句いいの女の子は正面の席に

横になってふて寝を始めた。

彼女のバッグは口を大きく開けたままテーブルに

広げられている。誰もそれを注意しない。

 

盗られたら盗られたもんが悪い、そんな感じである。

妙な親切心でバッグを閉めてあげても

触っているところを見とがめられたら困るし、

しっかり寝入ってしまった彼女をもう起こせない。

 

知〜らないっと。

 

停車してから2時間が過ぎた頃、

車内アナウンスが流れた。

「この列車はしばらくしたら発車致します…」

車内に安堵の空気が流れた。

 

22時に到着する予定が

0時を回ってしまうこととなった。

「よかった、駅前のホテルにしておいて」

銘子は駅から徒歩5分かからないホテルを

選んでおいたので少しだけ安心していた。

 

スピードに乗っていた列車が減速しだした。

いよいよNarbonneだ。

 

降りる客がそれぞれ荷物を棚から下ろしだす。

銘子は先ほど携帯を貸してくれたおねえさんに

挨拶をして席を立った。静かに列車は停まった。

 

さ、ホテルでシャワーだ!

眠れる♪

 

「あれ?」銘子は少しだけ違和感を持った。

 事前に調べたホテルの周辺地図では、

駅を突き当たりにして『T字路』のはずなのに、

なぜか駅前にロータリーがあり、

『放射線状』に道が駅から広がっている。

 

とりあえず一番広い道を進む。

少しだけ上り坂になっている。

通りの名前を確認しようとするが、

暗くてよく見えない。

かすかな明かりで見てみたが、どうも違うようだ。

人一人通らない午前0時過ぎ。

 

かなり不安になってきた銘子は、

一軒だけ明かりの灯ったバーのドアを開けた。

カウンターに3〜4人の男が座っていて、

カウンターの中に恰幅のいいおばさんがいた。

一斉に全員がこちらを振り向く。

 

思い切ってそのおばさんに向かって尋ねた。

 

「すみません、Pierre Semard通りを

 探しているんですが…」

 

「へ?Pierre Semard?

 聞いたことないねえ…知ってる?」

 

おばさんはそこにいる皆に尋ねた。

みんな、知らないという。

 

「あんた、どこに行きたいの?」

 

尋ねられるまま、銘子はホテルの場所を

記したメモを見せた。

 

「どれどれ…あれ?

 これ、Narbonne(のホテル)やんか!

 …ここ、Beziersやで!」

 

「へっ?」

 

列車がNarbonne到着10分前のところで停車したから、

それがNarbonne手前だと銘子が勝手に

思い込んでいたのだ。

 

「一駅…手前っ…?」

 

新幹線で一駅手前で降りた、ようなこと。

きゃ〜っ!

 

お礼の言葉もそこそこに、踵を返して駅に走る!

そして駅にいた係のおじさんに叫ぶように聞く!

 

「次のNarbonne行きの列車は

 どのホームに入るのっ???」

 

おじさんの教えてくれたホームで待っていると、

5分程して列車が入って来た。

 

同じように乗り込んだおねえさんと一緒に、

出入り口前の簡易座席に腰掛けていると、

検札係のおじさんが来て、チケットを検査するでもなく

そのおねえさんと世間話し始めた。

 

「よかったね〜。待ってた甲斐があったねぇ。

 遅れに遅れて、今日はこの列車が

 『最終』だからね〜」

 

『最終列車…』

 

おじさんの言葉を聞いて銘子はぞっとする。

Beziersの駅で夜明かしするところだった…。

あんなに寂しい駅で。

ああ、怖い、怖い。

 

念の為に銘子はおじさんに次がNarbonneかと

確かめておいた。

 

おじさんとおねえさんの世間話は続く。

銘子の耳にも分かる単語が入って来る。

 

『若い男、Narbonne駅構内、落ちた』

 

おじさんは自分の首をさっと切る真似をする。

 

おねえさんが『ひょえ〜〜〜っ!』という表情で

顔を覆う。

Narbonne駅で若い男がホームに落ちて

(自殺か事故かは分からないが)死んだことが

銘子にも何となく分かった。

 

列車が減速を始めた。

 

駅に着くと、地図の通りにT字路になっている。

当たり前か。

通りの名前もすぐに確認出来た。ホテルが見えた。

正面左の小さなドアの前に立つと、

チャイムを押す前に中からインターホンで聞かれた。

 

「どなた?」

 

「予約してたものです!」

 

「はいはい、待っててね」

 

今の草刈正雄が更に老けたようなおじさんが

出迎えてくれた。

優しそうなので、銘子はつい愚痴ってしまう。

 

「今日は飛行機のストに、列車の事故に…

 もうクタクタですぅ…」

 

「じゃ、記帳は明日にしようね。部屋に案内するよ」

 

階段で二階に上ってすぐの部屋に通された。

狭いが、何て天井が高いのだろう!

部屋の奥行きよりも天井までを測ったら、

その方が長いのではないか?

それだけが特徴の、あとはシングルベッドに

デスクがあるだけの簡素な部屋だった。

 

おじさんは「寒かったらエアコンつけてね」と云い、

すぐに出て行った。

 

バスルームを見ると、ドライヤーがなかった。

明日の朝、借りることにして、

とりあえず化粧を取り、足をお湯で温めて

そのままベッドに入った。

ともかく眠りたかったのだ。

 

長い、長い一日がやっと終わった。

 

つづく

 

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 第五章  

 世界遺産の街、Carcassonne をお楽しみに!

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posted by 小池 紫 at 22:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行記
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