2009年12月01日

フランス危機一髪! '07 <第三章>


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    第三章 パトちゃん、ペッ!


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決心した銘子は云った。


「Montpelier行きに変更する!」


何が何でも今日中にNarbonneに行くのだ!

飛行機でとにかく南に向かうしかない。


するとおっちゃんが「ついてこい!」と云う。

どうもMontpelier行きのカウンターに

連れて行ってくれるようだ。


すぐにMontpelier行きのカウンターが見つかった。

係のおねえさんは本心からかどうか分からないが、

すまなさそうな顔で「残念ですが…」と首を振った。


「どうする?」 おっちゃんがなぜかニヤニヤしている。


このスト中、絶対にParisに滞在するべきではない!

と銘子は確信する。


「列車で行く!」


「え? 5時間はかかるで」


「いいの!今から駅に行くわ、ありがとう!」


銘子が立ち去ろうとすると、

おっちゃんは銘子の腕をつかんだ。


「空港内にSNCFのカウンターがあるから

 そこで列車があるかどうか、確かめたら?」


そっか。ここで列車のチケットを手配出来るのか。

じゃあ…。

なぜかもちろん、おっちゃんも一緒について来る。


カウンター前に並んでいると、おっちゃんが銘子に聞く。


「結婚してるの?…子供は?」


面倒なので、銘子は結婚していることにした。

子供はいない、と答えた。

おっちゃんに同じように尋ねると、


「わし? わしは子供3人。

 で、旦那を日本に置いて一人で旅行?」


「そう。彼は仕事があって」


「ふ〜ん」


やっと銘子の番がきた。

今から手配出来るのは

『Gare Lyon(Paris) - Avignon(乗り換え) - Narbonne』

だった。


しかも、Gare Lyon を17:20に出て、

Narbonne に22:01に着くのだと云う。


今日中といえば、そうなるが…。

ともかくそれしかないと云うのでチケットを購入することにする。

118.80ユーロ。高いなあ。

でも、ホテルのキャンセル料と同程度なので、まあよしとする。


しかし問題は列車の時間まで5時間はあるということだ。


ともかく一旦落ち着いたので空港内のカフェで

お茶を飲むことにする。

喉がカラカラだ。

本当はビールを飲みたい口の銘子だが、

ここは何となく止めておいて

オレンジジュースにする。

おっちゃんも何となくコーヒーを頼んでいた。


「わし、Patrick(以下、パトちゃん)って云うねん。君は?」


「銘子です」


なぜかパトちゃんの目が♥ 黒ハート になっている。


「Meiko、…う〜ん、可愛い!」


気がつくと銘子の手にパトちゃんの手が重なっている。

苦笑いしながら手を引き抜く銘子。

銘子が結婚してようとしてまいと、フランス男には関係ない。


数時間前に、列に並んでいるときの世間話で

パリに友人がいないということを話してしまっていたので、

約束があると云ってその場を離れられないのだ。

飛行機の不安のあまり、少し気配りが足らなかったことを

銘子は後悔し始めていた。


「わし、飛行機作ってんねん」


飛行機の設計図というか出来上がり図のようなものを

見せてくれる。名刺には『代表者』とあった。

会社の経営者なのか?パトちゃんはToulouseとParisに

ある会社を行き来しているようだ。


こういうのを『出会い』というのであろうが、

銘子自身が何とも思わないのだから

進展しようにもしようがない。

パトちゃんはどんどん大胆になって銘子の髪をなでてくる。


頭をそらせてパトちゃんの手から逃げる銘子。


「そんなことしたら、奥さんに怒られるよ!」


「奥さん?わし、ずっと前に別れたも〜ん」


本当かどうか分からないが、奥さんとは別れて

パトちゃんは3人の子供と一緒に住んでいるという。


「わしの奥さんはいない、銘子の旦那さんは日本。

 二人だけの秘密にしようね!」


…何を秘密にしようというのだ!

秘密なこと、なんてしたくない!!


ぶるんぶるん!と首を横に振る銘子であった。

銘子にも好み、ってもんがある!


ともかく、今夜泊まるホテルに『到着が遅くなる』と

電池の残り少ない携帯で連絡だけは入れておく。


「で、ご飯どうする?」


パトちゃんが聞いて来た。


Narbonneに着くのが22時。

そこで店が開いているかどうかは全く分からない。

最悪夕食を抜くかパンを駅か列車内で買うとして、

昼はちゃんと食べておかなければならない。

まだ明るいし、お昼ご飯なら一緒に食べてもいいか、

と銘子は思った。

ここまで(時間があるにしても)つき合ってくれた

お礼もしたいし、とも思った。


「どこかで食べます?」


「うん、行こ行こ!」


ともかくOrlybusでまたもやDenfert-Rochereauに戻る。

隣に座ったパトちゃんがそれでなくても寄り添ってくるので

銘子は窓の外を眺めるしかなかった。


「何を…考えてるの?」


「え?」


「僕のこと?…うふ♪」


「私の日本のラブラブダーリンのこと!」


わざとらしくイジケた顔をするパトちゃん。


二人はDenfert-Rochereau駅前のカフェで

食事することになった。

銘子はやはり、あまり食欲がない。


「(何にするか)決めました?」


「うん。わし、このサラダにする」


サラダと云っても、フランスのサラダのボリュームは

食べたことがある人なら分かるだろう。

直径40センチ以上はある皿に

山盛りの野菜とハムや肉が乗っているのだ。


パトちゃんが選んだのはフォアグラと鴨肉の乗ったもの。

銘子はチキンの乗ったものを選んだ。


「ワインは飲める?」


「はい。グラス1杯くらいなら

(もっと飲めるくせに!嘘つき!)」


「何が好き?」


「任せます」


トイレに行って戻って来たら、パトちゃんはなぜか

赤ワインをボトルで頼んでいた。

飲み過ぎないように気をつけないと…

銘子は気を引き締めるのであった…。


フランスで食べる鶏肉は安いものであっても

ジューシーで美味しい。が、残念ながら

銘子には食欲がなかった。


「銘子のナイフとフォークの使い方、いいねぇ」


パトちゃんが目を細めて云う。

何でもかんでも褒める対象になっているのか?と

銘子は思ったが、そうでもないらしい。


「最近の若いのは、最初は右手でナイフを持ってても、

 すぐに右にフォークを持ち替えて

 食べ出すんや。これはあかんわぁ。

 でも銘子はちゃんとナイフとフォークで食べてるなぁ。

  うん。ええなぁ」


最近の若いものは箸もちゃんと持てない!

と嘆く日本のおじさん、おばさんしかり、

フランスでもそういうのがあるんだ、と銘子は妙に感心した。

が、素っ気なくこう云った。


「あ、そう?…だって私、左利きやもん!」


「うん。でもええねん♪」


パトちゃんは微笑んでいる。


ふと見ると、フォアグラはバクバク食べているのに、

鴨肉の脂(皮)を丁寧に切り取っている。


「何してるの?」


「わし、コレステロール溜まってるねん。

 薬もほら、食後に飲まなあかんし」


「でもフォアグラをさっきから食べてる…」


「あ、フォアグラはええねん。これは大丈夫!

 えっと…タバコ、吸ってもいい?」


そういえば、空港内で並んでいるときから

何度もタバコを吸いに列を離れていたっけ。


「一日にどれだけ吸うんですか?」


「えっと…一箱かな」


パトちゃんは薬を水ではなくワインで飲み、

タバコに火をつけた。

かなり、健康に対して矛盾したおっちゃんだ。


「えっと、これが一番上の子供で、次の子が…」


いつの間にかパトちゃんは財布から子供たちの写真を

取り出しては銘子に見せてくれる。

ずっと若いときに奥さんと別れたにしては、

(最近の写真だ、と云って見せてくれた)下の子が幼い。


なぜか自慢そうに自分の運転免許も見せてくれる。

20代くらいか、もっと若いパトちゃんがそこにいた。


フランスでは免許の書き換えがなく、

免許を取った時点での写真がず〜〜っと使えるとは

聞いていたが、本当にそうなのだ。

日本もそうすればいいのに。

3〜5年ごとに確実に老いているのを

確認させられるのだから!


「銘子の旦那さんの写真は?」


しまった〜〜〜っ!

仕方ないので、口からでまかせに

「日本人は家族の写真を持ち歩かないの!」

と云っておいた。


日本でも、結婚している人は持ち歩いているのだろうか???

本当のところを銘子は知らない。


清算のときになって、銘子が払おうとすると

パトちゃんはそれを制した。

先ほどのオレンジジュースも奢ってもらったし

これは今日つき合ってもらったお礼だからと

銘子が云っても聞いてくれない。


パトちゃん、ペッ!だった。


(『払う』というフランス語は payer といい、

  動詞の活用をすると

  Pato-chan paie.…パトちゃん、ペッ!となる。

  え? 最終的に『カトちゃん、ペッ!』に引っ掛けたくて

  Patrickをわざわざパトちゃんと呼んでたって?

  おほほ…)


手を握って来る、逃げる、

髪を撫でて来る、逃げる、

この攻防を続けながら何とか

Gare Lyonに着いた。


パトちゃんは一回でいいから

キスさせてくれと懇願する。

ホームで一回だけ、ほっぺにならいいよ、

と銘子は諦めて云った。


17時15分。あと5分で発車だ。

やっとパトちゃんから解放される。

酔狂にも、誘いに全く乗らない女に

丸一日つき合ってくれたパトちゃんはいい人だと思う。

無理矢理どこかに連れ込まれる危険だってあるんだし、

そう考えたら彼はいいおっちゃんだった。


ホームでパトちゃんは銘子を抱きしめた。

ほっぺにキスして、もう一方の頬にキスして、

また往復するのかと思ったら

方向がずれている!


危ない!


パトちゃん、本気でちゅ〜するつもりだ。


絶対に銘子はパトちゃんにそこまでは許せない。

必死に逃げて握手して列車に飛び乗った。


窓の外、ホームでパトちゃんがにこやかに手を振っている。

「月曜日、連絡待ってるよ!」


駅構内のカフェで、銘子がParisに戻って来る月曜日の

夕食を一緒にしようと無理矢理約束させられたのだ。

パトちゃんに悪いが、これ以上の誘いに乗ると

パトちゃんの思うつぼなので、銘子は勿論、

連絡するつもりはない。

ごめんね、パトちゃん。


そう思いながら銘子が手を振ると、

静かに列車は走り出した。


「はぁ〜。何て一日だったんだろう」


銘子は一刻も早くNarbonneのホテルに着きたかった。

髪にしっかりついたタバコの香りを

すぐにでもシャワーで洗い流したかったのである。


しかし、まだまだ銘子の長い一日は

終わらなかったのである!!

posted by 小池 紫 at 08:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行記
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