2009年12月26日

フランス危機一髪! '07 <第五章>

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    第五章  世界遺産の街、Carcassonne 

 

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久々の目覚まし(時計)をかけない朝。

機械的に6、7時前には目が覚めるように

なってしまった四十路ではあるが、

それでも疲れからか、今朝は7時過ぎに目が覚めた。

 

まずはシャワーだ。

パトちゃんのタバコの香りが髪に染み付いている。

すっきり洗い流し、身支度をして階下に降りた。

フロントデスクにいた女性にドライヤーを借りて部屋に戻り、

しっかり乾かす。…完璧。

 

一階にある食堂でゆったり食事を摂る。

デニッシュ、バゲット、クロワッサンが選び放題。

コーヒーもエスプレッソ、カフェオレ、そして紅茶、

ヨーグルト、ジャム、バター、ジュース…

もし食べられるなら、おかわりも自由。

 

銘子以外の日本人は泊まっていないもよう。

イギリス人っぽい中年夫婦とフランス人の老夫婦が

一緒の食堂にいた。

 

大きめのカップにたっぷりの濃いコーヒーを入れ、

少しだけ泡立てて温めてもらった

ミルクをたっぷり入れて飲む。

 

う〜ん、生き返る思い。

 

バゲットとクロワッサンとヨーグルトと

コーヒー二杯でおなかが一杯になった

銘子は部屋に戻り、デスクで計画を立て直した。

先日のような恐怖のストライキに巻き込まれるのは

もうごめんだ。

Parisへの帰りはTGV(フランス新幹線)を

使うつもりだった。

 

つまり、今いるNarbonneからCarcassonneへ、

そこで一泊してからToulouseへ向かう行程までは

列車を使い、そしてToulouse-Parisを

飛行機の予定であったが、それをやめてTGVに乗るのだ。

しかし、飛行機だと1時間で済むところが

TGVだと5〜6時間かかる。

 

今回の旅行の目的に、Carcassonneで昼・夕方・夜の

写真撮りまくるというのがあった。

 

天気予報を見ると、今日一日の天気は良いが

明日からは崩れるような感じであった。

今日一日の良い天気を逃せない!

銘子はCarcassonneに昼過ぎに入り、

夕方、夜にかけて写真を撮り、そして

翌朝Toulouseに向かって出発することにした。

 

そうなると、ここNarbonneでの滞在時間は

3時間ほどしかない!

勿体ないのだが行程上、仕方ない。

この近辺は南西ワインの宝庫だ。

FITOU、CORBIERES、MINERVOIS…。

カーブ巡りしたら楽しいだろうな。

 

おっと!こうしてられない!

慌ててチェックアウトし、荷物をそのまま

草刈正雄に預けてつかの間の散策である。

もちろん、正雄に12時台の

Narbonne―Carcassonneの列車の時刻は調べてもらった。

親切にも、3本ほどある、とプリントアウトしてくれた。

 

ホテルの前には人っ子一人いない。

静かな朝である。




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カメラを持って正雄がくれた地図を片手に街の中心街へと向かう。

日曜の朝だからか?誰もいない。静かな静かな通りを進んでいくと

川にぶつかった。ここがCanal de la Robineだ。

…って地図に書いてあった。

 

ここでは朝市が開かれていた。驚く程たくさんの人がいる。

町中の人がここに集まって来ているのか?

今日は洋服の市のようで、びっくりするような大きなショーツが

ぶら下がっていたり、セーターやコートが並んでいる。

鮮魚の卸売り市場のような呼び込みで服を売っているおっちゃん。




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ちょこちょこと写真を撮りながら進んで行くと

大きな建物に人々が吸い込まれて行くのが見える。

銘子も行ってみると、そこは常設の市場だった。




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中にはあふれる食材が。

 

野菜、肉、魚、花、はちみつ、ジャム、パン、

ソーセージ、あらゆるものが並んでいる。

 

ああ、ホテルでの食事を少し控えてくのだった。

と後悔する銘子であった。

 

この市場の前で写真を撮っていると

小さな小太りのおじいさんが声をかけて来た。

 

「ねえちゃん、こんなとこ撮ってんの?」

 

「はい、とても美しいですね」

 

「そうか。わしは毎週ここに来とるがな。

    きれいかぁ?」

 

「あの…この辺にツーリスト・インフォメーションは

 ありますか?」

 

「ツーリスト…わし、生まれてからずっとこの街に

 住んどるけどな、観光はしたことないから、知らんわ」

 

「ああ、そうですか、ありがとう…」

 

お礼を云いながら銘子がふと、何気なく

そのおじいさんの顔をまともに見ると、なんと!

そのおじいさんの鼻の頭から毛が生えているではないか!

そう、鼻の毛穴のすべてから黒い毛が

3mmほど伸びているのだ。

これが本当の『鼻毛』なんだろうな〜と

銘子は妙に感心してしまうのであった。

 

そのまま来た道を戻りつつ、大聖堂の前までくると、

なぜかそこにはかなり古い

(車の知識がない銘子が見てもそう思う)

シトロエンが並んでいる。

 



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どうも、シトロエン同好会のようで、

見せ合いっこしているようだった。

これからどこかに行くのだろうか?

 

おっと、時間がない。

銘子は慌ててホテルに荷物を取りに戻り、

それからすぐに乗れる列車のチケットを買った。

12:49 Narbonne 発、13:20 Carcassonne 着のTGV。

少し時間があったので売店でお昼ご飯のサンドイッチを買った。

 

 


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ご存知の方も多いだろうが、フランスでサンドイッチというと

バゲットにチーズとハムを挟んだものを云うのだ。

何てことないのだが、パンもハムもチーズも安物なのに旨い。

塗ってあるバターも旨い。

これを銘子は駅のホームで平らげた。




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昨日の夜、ここで何があったのか…知ぃ〜らないっと。

見てないもん。

 

ホームに入って来た列車に乗り込み、30分程で

ヨーロッパ最大の城塞都市、Carcassonneに到着だ。

 

まず先に、駅構内で明日のParisまでのチケットを手配し、

いざ出発!

 

ここには一度来たことがあるので何となく地理は分かる。

駅前に立て込んでいた城下町を抜けて川に出た瞬間、

橋の右側にCarcassonneが誇るLa Citéの城壁が見えて来た!



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今回は、この中世の雰囲気をそのまま残した La Cité Medievale の

正面に位置するホテルを予約してある。

ここは今回の旅行の行程で相談に乗ってくれた銘子の仏語教師・

俊のお薦めの宿である。

 

まずホテルにチェックインする前に近づいて来る景色を

撮りまくる銘子。

 

Pont Neuf(新橋)から城をのぞみ、

そして川を渡ってすぐまたPont Vieux(古橋)を

戻り、そこからまたLaCitéを撮る。美しい。




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「よし!今日は夕暮れからここに陣取って

 日がとっぷり沈むまでここで写真を撮ろう!」

 

銘子は決心し、ホテルへ向かった。

ここは初めてのシステムで、まずチェックインの際に

部屋の鍵と数字が刻印された札を渡される。

銘子の部屋は別棟になっていて、そこのオートロック解除の

暗証番号が刻印されていたのだ。

 

チェックインした建物を抜けて道路を渡ったところに

別棟があり、云われた通りにロックを解除して部屋に入った。

なんて素敵なお部屋なんでしょ!可愛い!

浴室の白いタイルの目地がなぜか全てピンクだ。

おしゃれだ。白いタイルにピンクの目地。かわいい。

 

おっと、感動していて時間を忘れそうになってしまった。

銘子はカメラだけ持つと、城塞(La Cité Medievale)

の中へ出発した。

 

観光客で一杯の街。土産物屋を冷やかしたり、

ワイン屋さんをのぞいたり、そしてカフェで

ビールを飲んだりして日暮れを待つ。

 

日が西の空に傾き、空がオレンジ色になってきた!

よし!

 

銘子はミニ三脚とカメラを抱かえてPont Vieux(古橋)へ。

途中、おじさんが声をかけて来る。

 

「おねえちゃん、いい写真撮ってね!」

 

「ありがと〜!」

 

橋の端(?)に腰掛けて三脚を据える。

そして数分ごとに同じアングルで写真を撮る。

 

そう。徐々に暮れて行く空気の中の城を撮って

パラパラ漫画を作るのだ!




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冷えていく晩秋の夕暮れ。

石の橋に座っていると、お尻が冷えてかなわない。

ライトアップされた城壁が白く光る頃になって、

銘子はやっと写真を撮り終えて夕食に行くことにした。

城壁の中には土産物屋もレストランも沢山あるのだが

日曜の夜だからか、どうも人出が少なかった。

そして、やはり、ここで食べるのは…



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Cassulet(カスレ)でしょ〜!

白インゲン豆とソーセージとローストした鶏肉の煮込み?

(煮込んだ後でオーブンで焼く)ま、コクのある地方料理だ。

赤ワインを頼み、ちびちび飲みながら熱々のカスレを食べる。

おいしい〜っ!

 

が、やはり最後までは食べきれない。

延々、鍋に豆が沈んでいる。申し訳ないが残す。

デザートも入らない。満腹だ。

 

ゆっくりホテルまで戻って電池残量が残り少ない携帯に

電源を入れてメイルチェックをする。

俊から『ワン切り許す!』とメイルが入っていた。

云う通りにワン切りすると折り返しホテルに

電話がかかってきた。

 

「とにかくCarcassonneまで来たんや。

 よかったね〜、無事で。

 で、Parisへの帰りはどうすんの?」

 

「いや、もうあんな思いは嫌やから

 TGVで帰るよ」

 

「でも結構の便がもう普通に飛んでるで〜。

 時間が勿体ないやんか。

 乗れる飛行機に変更したら?」

 

「う〜〜〜ん。でも…いい。ややこしいし、

 もうTGVのチケット買ったし」

 

「ちなみに銘子の便の予約No.は?」

 

「えっと…YPB413やけど…」

 

「分かった!変更出来るか調べといたるわ!」

 

電話は切れた。

銘子は俊に

 

「ともかくAF6133便がannulée(欠航)か

 どうかだけ調べてくれますか?」

 

とメイルを送った。

 

翌朝、また俊から電話が入った。

 

「AF6135に変更できたで!

 予約No.は変わらへんからそのまま

 チェックインカウンターで

 その番号云うたらOKやで」

 

「ええ?や、でも…」

 

「今回は無料航空券で行ってるから、

 Toulouse-Paris間で搭乗実績を

 作っとかなアカンねんやろ? 

 行きでTGV乗ってしまったから、

 帰りはもう飛んでるんやし、

 飛行機に乗っといた方がいいのとちゃうか?」

 

「あ、そうか。今回、飛行機に乗っとかんと、

 今までのカードの買い物マイルが

 全部無効になってしまうのか。」

 

「17:15 Toulouse 発で、18:35 Paris 着。

 15:30〜16:00までに

 空港に行っといたらいいから

 それまで時間を有効に使えるで!

 ほな、そのまま旅行を楽しんでくださ〜い!」

 

「あ、ありがとう!」

 

そっか〜。今回の銘子のビジネスクラス航空券は

貯まったマイルで交換したもの。

エールフランスVISAカードで買い物したり、

カード引き落とししている光熱費等のマイルの

有効期限は1年間。その有効期限は搭乗実績があれば、

3年に延ばすことができるのだ。

(*'07年当時のお話)

 

銘子の周りにも無料航空券欲しさに

マイルをせっせと貯めながら、しかし時間的余裕が

なくてフランス旅行がままならず、

提携航空会社の大韓航空で韓国二泊三日をして

マイルの有効期限をかろうじて延ばしていた友人がいる。 

 

ま、これで丸く収まった。

とにかくToulouse-Paris間のTGVのチケットは

キャンセルしなくちゃ。

それで出来た昼間の数時間を、

銘子はToulouse 散策に充てることにした。

さ、そうと決まったら朝ご飯!

 

何が楽しみと云って、それが楽しみで

ここに宿泊したようなものなのだ。

朝食レストランには一人だけ初老のおじさんがいた。

 

「どこに座ろうっかな…!ここだ!」

 

ベストポジション。

ここは、城壁を眺めながら朝食がとれるのだ。

すばらしいロケーション。

 

 

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芝生の向こうに見える城壁。

温かいパンと熱々のコーヒー。

 

今日はここからTGVでToulouseに行き、

飛行機でParisに戻るだけ。

そうだ!Toulouseでちゃんとしたレストランで

ゆっくりお昼ご飯を食べよう。

 

毎度、サンドイッチというのも味気ないし!

 

そんなことを考えながら銘子はいつもよりも

ゆっくり時間をかけて朝食をとった。

 

また自分に降り掛かる災難には

気づきもしないで…

 

 

次回、

 

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  第六章  悪夢、再び…Toulouse-Paris 

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お楽しみにっ!

 

 

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2009年12月05日

フランス危機一髪! '07 <第四章>

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   第四章  ホテルはどこ???  

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順調に列車はAvignonへ向かう。

検札が回って来る。

あらかじめ、列車に乗る前にチケットを

『conposteur』に挿入して改札印を

つけておかないといけないのだ。

もし忘れると罰金徴収されるので、

銘子はもちろん済ませておいた。

 

Avignonまでは2時間半ほどの旅である。

学生時代に『旅行研究部』に属していて

北海道を周遊券で回ったり、

普通列車を乗り継いで九州まで行ったことがある

銘子なので、長い時間、列車に揺られることは

苦痛ではない。むしろ楽しい。

 

気がかりなのはAvignonでの乗り継ぎ時間が

10分程しかないこと。

どちらかにダイヤの乱れがあったら…

いやいや、杞憂に終わるよう、祈ることにする。

ともかく、携帯電話の充電ができないので、

電池が切れたら終わり。

 

Parisに戻るまで誰にも頼れない!

帰りの飛行機の運航状況なんて、どうやって

調べたらいいの???

でもまあ、まだ2日間もあるのだ。

ゆっくり考えればいい。

 

…ふと気になって鞄を探ると、

デジタルカメラの充電器は持っていた。

 

「よかった…」

 

疲れからか、銘子は軽く眠ってしまうのだった。

 

Avignonに到着した。

電光掲示板で確認したホームに向かう。

ホームにある掲示板には

その直前に到着する列車の情報しかない。

不安そうにきょろきょろしていたからか、

後ろにいたおじさんが

「どこまで行くの?」と聞いて来た。

 

Narbonneまでだと答えると

このホームで間違いない、と云ってくれた。

安心しながらも、掲示板を横目で確認するのを

銘子は忘れなかった。

 

無事に乗り換えもできた。

後はNarbonneに着くのを待つだけである。

 

席は向かい合わせの4人がけで

『SALLE』というものだった。

2人がけの座席が向かい合っていて、

その真ん中に長いテーブルが固定されている。

中央に向かって板が折り込んであるので

必要なときは手前に板を倒せば広いテーブルになるし、

乗り降りのときにはコンパクトに折り畳めばいいのだ。

 

先に座っていた20代の女の子二人連れは、

次の駅に着く前にテーブルに肘をついて

(固定しないとアイラインやマスカラが

 えらいことになる!)

しっかりメイクして、そして降りて行った。

 

てきぱきとあっという間に顔を作っていくのを

見ているのは面白かった。

(銘子の旅行中、こういう長距離列車内でしか

 この光景は見なかった。さすがに地下鉄では

 見かけなかった)

 

次の駅で残りの3席が埋まった。

銘子の正面には、真っ赤に染めたボブヘアーの

おねえさん。

その横にはさっきまで通路を挟んだ隣の席で

2人分占領して寝ていた黒ぶち眼鏡のおにいさんが

こっちへ移って来た。

実際にそこへ座る人が来たみたい。

 

銘子の隣には20代前半っぽい、やけに疲れた女の子。

列車が動き出してすぐに真っ赤なおねえさんが云った。

 

「マニキュア、塗っていい?」

 

全員が「ど〜ぞ」と云う。

まあ、化粧は勝手に始めるのだが、

マニキュアはにおいがするから

許可を求めたのだろう。

またこれも、さっさと手早く塗り、

乾くのを待たずに、すぐ器用に雑誌を読み出した。

 

Narbonneへは2時間弱で到着する。

銘子は持って来た文庫本を読みながら

列車に揺られていた。

 

あと10分でNarbonneに到着だと思ったら、

なぜか列車が減速を始めた。

そして駅ではないところで完全に停車した。

 

「え?」

 

列車内に『???』の空気が流れた。

と、そこへ車内放送が流れた。

 

「え〜、Narbonne駅で人身事故があったもようです。

この列車はここで最短1時間の停車をいたします〜」

 

どよめきが列車内に広がる。

 

「一時間?

 一時間って『最短』一時間でしょ?

 SNCFのことやし、いつになるんやら!」

 

真っ赤なおねえさんが云う。

 

「も〜最低〜っ!

 今日は友達の所為で列車に乗り遅れるは、

 やっとこれに乗れたと思ったら!

 私はいったいいつ、Toulouseに着くの????」 

 

不貞腐れた女の子が叫ぶ。

 

銘子も云う。

「私なんか、今日はストで飛行機は飛ばへんわ、

 列車に変更して、これやし!」

 

全員が苦笑いで云う。

「しゃ〜ないな〜」

 

ここから口々に、交通機関でいかに悲惨な目に

遭ったかの自慢大会が始まったが

銘子にはもうついていけない『早口の』話

(普通の会話速度だとは思うが)だったので

話の輪から外れて真っ暗な窓の外に目をやった。

 

「いったい、どれだけここに停まってるんやろう…」

 

最短で、と放送があった通り、軽く1時間が過ぎた。

それぞれが腰を延ばしにか、タバコを吸いにか

席を立って行った。銘子だけがそこに残された。

 

「いかん!」

Narbonneのホテルに更に遅くなると

連絡を入れなくては!

しかし、銘子の携帯は出来るだけ使いたくない。

緊急の事態の為に電源を温存しておきたい…。

 

通路を挟んだ隣の席にいたおねえさんが

携帯で話をしている。

やさしそうだ。…借りるしかない。

銘子が勇気を出して云うと、あっさり貸してくれた。

とにかく連絡はついた。

 

ホテルのおじさんは

『遅くなるのは構わないけど、表通りのドアは

施錠してあるから角の小道にある

小さなドアのチャイムを鳴らしてね』

と優しく云ってくれた。

 

もう、腹を決めて列車が動き出すのを待つばかりだ。

 

黒ぶち眼鏡のおにいさんは腹を決めて

線路沿いを歩いて駅まで向かうそうだ。

みんなが「がんばってね!」と声をかける。

 

真っ赤なおねえさんは、もっと人口密度の低い席を

見つけたのか、荷物を持って移動して行った。

 

銘子の隣にいた文句いいの女の子は正面の席に

横になってふて寝を始めた。

彼女のバッグは口を大きく開けたままテーブルに

広げられている。誰もそれを注意しない。

 

盗られたら盗られたもんが悪い、そんな感じである。

妙な親切心でバッグを閉めてあげても

触っているところを見とがめられたら困るし、

しっかり寝入ってしまった彼女をもう起こせない。

 

知〜らないっと。

 

停車してから2時間が過ぎた頃、

車内アナウンスが流れた。

「この列車はしばらくしたら発車致します…」

車内に安堵の空気が流れた。

 

22時に到着する予定が

0時を回ってしまうこととなった。

「よかった、駅前のホテルにしておいて」

銘子は駅から徒歩5分かからないホテルを

選んでおいたので少しだけ安心していた。

 

スピードに乗っていた列車が減速しだした。

いよいよNarbonneだ。

 

降りる客がそれぞれ荷物を棚から下ろしだす。

銘子は先ほど携帯を貸してくれたおねえさんに

挨拶をして席を立った。静かに列車は停まった。

 

さ、ホテルでシャワーだ!

眠れる♪

 

「あれ?」銘子は少しだけ違和感を持った。

 事前に調べたホテルの周辺地図では、

駅を突き当たりにして『T字路』のはずなのに、

なぜか駅前にロータリーがあり、

『放射線状』に道が駅から広がっている。

 

とりあえず一番広い道を進む。

少しだけ上り坂になっている。

通りの名前を確認しようとするが、

暗くてよく見えない。

かすかな明かりで見てみたが、どうも違うようだ。

人一人通らない午前0時過ぎ。

 

かなり不安になってきた銘子は、

一軒だけ明かりの灯ったバーのドアを開けた。

カウンターに3〜4人の男が座っていて、

カウンターの中に恰幅のいいおばさんがいた。

一斉に全員がこちらを振り向く。

 

思い切ってそのおばさんに向かって尋ねた。

 

「すみません、Pierre Semard通りを

 探しているんですが…」

 

「へ?Pierre Semard?

 聞いたことないねえ…知ってる?」

 

おばさんはそこにいる皆に尋ねた。

みんな、知らないという。

 

「あんた、どこに行きたいの?」

 

尋ねられるまま、銘子はホテルの場所を

記したメモを見せた。

 

「どれどれ…あれ?

 これ、Narbonne(のホテル)やんか!

 …ここ、Beziersやで!」

 

「へっ?」

 

列車がNarbonne到着10分前のところで停車したから、

それがNarbonne手前だと銘子が勝手に

思い込んでいたのだ。

 

「一駅…手前っ…?」

 

新幹線で一駅手前で降りた、ようなこと。

きゃ〜っ!

 

お礼の言葉もそこそこに、踵を返して駅に走る!

そして駅にいた係のおじさんに叫ぶように聞く!

 

「次のNarbonne行きの列車は

 どのホームに入るのっ???」

 

おじさんの教えてくれたホームで待っていると、

5分程して列車が入って来た。

 

同じように乗り込んだおねえさんと一緒に、

出入り口前の簡易座席に腰掛けていると、

検札係のおじさんが来て、チケットを検査するでもなく

そのおねえさんと世間話し始めた。

 

「よかったね〜。待ってた甲斐があったねぇ。

 遅れに遅れて、今日はこの列車が

 『最終』だからね〜」

 

『最終列車…』

 

おじさんの言葉を聞いて銘子はぞっとする。

Beziersの駅で夜明かしするところだった…。

あんなに寂しい駅で。

ああ、怖い、怖い。

 

念の為に銘子はおじさんに次がNarbonneかと

確かめておいた。

 

おじさんとおねえさんの世間話は続く。

銘子の耳にも分かる単語が入って来る。

 

『若い男、Narbonne駅構内、落ちた』

 

おじさんは自分の首をさっと切る真似をする。

 

おねえさんが『ひょえ〜〜〜っ!』という表情で

顔を覆う。

Narbonne駅で若い男がホームに落ちて

(自殺か事故かは分からないが)死んだことが

銘子にも何となく分かった。

 

列車が減速を始めた。

 

駅に着くと、地図の通りにT字路になっている。

当たり前か。

通りの名前もすぐに確認出来た。ホテルが見えた。

正面左の小さなドアの前に立つと、

チャイムを押す前に中からインターホンで聞かれた。

 

「どなた?」

 

「予約してたものです!」

 

「はいはい、待っててね」

 

今の草刈正雄が更に老けたようなおじさんが

出迎えてくれた。

優しそうなので、銘子はつい愚痴ってしまう。

 

「今日は飛行機のストに、列車の事故に…

 もうクタクタですぅ…」

 

「じゃ、記帳は明日にしようね。部屋に案内するよ」

 

階段で二階に上ってすぐの部屋に通された。

狭いが、何て天井が高いのだろう!

部屋の奥行きよりも天井までを測ったら、

その方が長いのではないか?

それだけが特徴の、あとはシングルベッドに

デスクがあるだけの簡素な部屋だった。

 

おじさんは「寒かったらエアコンつけてね」と云い、

すぐに出て行った。

 

バスルームを見ると、ドライヤーがなかった。

明日の朝、借りることにして、

とりあえず化粧を取り、足をお湯で温めて

そのままベッドに入った。

ともかく眠りたかったのだ。

 

長い、長い一日がやっと終わった。

 

つづく

 

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 第五章  

 世界遺産の街、Carcassonne をお楽しみに!

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2009年12月01日

フランス危機一髪! '07 <第三章>


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    第三章 パトちゃん、ペッ!


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決心した銘子は云った。


「Montpelier行きに変更する!」


何が何でも今日中にNarbonneに行くのだ!

飛行機でとにかく南に向かうしかない。


するとおっちゃんが「ついてこい!」と云う。

どうもMontpelier行きのカウンターに

連れて行ってくれるようだ。


すぐにMontpelier行きのカウンターが見つかった。

係のおねえさんは本心からかどうか分からないが、

すまなさそうな顔で「残念ですが…」と首を振った。


「どうする?」 おっちゃんがなぜかニヤニヤしている。


このスト中、絶対にParisに滞在するべきではない!

と銘子は確信する。


「列車で行く!」


「え? 5時間はかかるで」


「いいの!今から駅に行くわ、ありがとう!」


銘子が立ち去ろうとすると、

おっちゃんは銘子の腕をつかんだ。


「空港内にSNCFのカウンターがあるから

 そこで列車があるかどうか、確かめたら?」


そっか。ここで列車のチケットを手配出来るのか。

じゃあ…。

なぜかもちろん、おっちゃんも一緒について来る。


カウンター前に並んでいると、おっちゃんが銘子に聞く。


「結婚してるの?…子供は?」


面倒なので、銘子は結婚していることにした。

子供はいない、と答えた。

おっちゃんに同じように尋ねると、


「わし? わしは子供3人。

 で、旦那を日本に置いて一人で旅行?」


「そう。彼は仕事があって」


「ふ〜ん」


やっと銘子の番がきた。

今から手配出来るのは

『Gare Lyon(Paris) - Avignon(乗り換え) - Narbonne』

だった。


しかも、Gare Lyon を17:20に出て、

Narbonne に22:01に着くのだと云う。


今日中といえば、そうなるが…。

ともかくそれしかないと云うのでチケットを購入することにする。

118.80ユーロ。高いなあ。

でも、ホテルのキャンセル料と同程度なので、まあよしとする。


しかし問題は列車の時間まで5時間はあるということだ。


ともかく一旦落ち着いたので空港内のカフェで

お茶を飲むことにする。

喉がカラカラだ。

本当はビールを飲みたい口の銘子だが、

ここは何となく止めておいて

オレンジジュースにする。

おっちゃんも何となくコーヒーを頼んでいた。


「わし、Patrick(以下、パトちゃん)って云うねん。君は?」


「銘子です」


なぜかパトちゃんの目が♥ 黒ハート になっている。


「Meiko、…う〜ん、可愛い!」


気がつくと銘子の手にパトちゃんの手が重なっている。

苦笑いしながら手を引き抜く銘子。

銘子が結婚してようとしてまいと、フランス男には関係ない。


数時間前に、列に並んでいるときの世間話で

パリに友人がいないということを話してしまっていたので、

約束があると云ってその場を離れられないのだ。

飛行機の不安のあまり、少し気配りが足らなかったことを

銘子は後悔し始めていた。


「わし、飛行機作ってんねん」


飛行機の設計図というか出来上がり図のようなものを

見せてくれる。名刺には『代表者』とあった。

会社の経営者なのか?パトちゃんはToulouseとParisに

ある会社を行き来しているようだ。


こういうのを『出会い』というのであろうが、

銘子自身が何とも思わないのだから

進展しようにもしようがない。

パトちゃんはどんどん大胆になって銘子の髪をなでてくる。


頭をそらせてパトちゃんの手から逃げる銘子。


「そんなことしたら、奥さんに怒られるよ!」


「奥さん?わし、ずっと前に別れたも〜ん」


本当かどうか分からないが、奥さんとは別れて

パトちゃんは3人の子供と一緒に住んでいるという。


「わしの奥さんはいない、銘子の旦那さんは日本。

 二人だけの秘密にしようね!」


…何を秘密にしようというのだ!

秘密なこと、なんてしたくない!!


ぶるんぶるん!と首を横に振る銘子であった。

銘子にも好み、ってもんがある!


ともかく、今夜泊まるホテルに『到着が遅くなる』と

電池の残り少ない携帯で連絡だけは入れておく。


「で、ご飯どうする?」


パトちゃんが聞いて来た。


Narbonneに着くのが22時。

そこで店が開いているかどうかは全く分からない。

最悪夕食を抜くかパンを駅か列車内で買うとして、

昼はちゃんと食べておかなければならない。

まだ明るいし、お昼ご飯なら一緒に食べてもいいか、

と銘子は思った。

ここまで(時間があるにしても)つき合ってくれた

お礼もしたいし、とも思った。


「どこかで食べます?」


「うん、行こ行こ!」


ともかくOrlybusでまたもやDenfert-Rochereauに戻る。

隣に座ったパトちゃんがそれでなくても寄り添ってくるので

銘子は窓の外を眺めるしかなかった。


「何を…考えてるの?」


「え?」


「僕のこと?…うふ♪」


「私の日本のラブラブダーリンのこと!」


わざとらしくイジケた顔をするパトちゃん。


二人はDenfert-Rochereau駅前のカフェで

食事することになった。

銘子はやはり、あまり食欲がない。


「(何にするか)決めました?」


「うん。わし、このサラダにする」


サラダと云っても、フランスのサラダのボリュームは

食べたことがある人なら分かるだろう。

直径40センチ以上はある皿に

山盛りの野菜とハムや肉が乗っているのだ。


パトちゃんが選んだのはフォアグラと鴨肉の乗ったもの。

銘子はチキンの乗ったものを選んだ。


「ワインは飲める?」


「はい。グラス1杯くらいなら

(もっと飲めるくせに!嘘つき!)」


「何が好き?」


「任せます」


トイレに行って戻って来たら、パトちゃんはなぜか

赤ワインをボトルで頼んでいた。

飲み過ぎないように気をつけないと…

銘子は気を引き締めるのであった…。


フランスで食べる鶏肉は安いものであっても

ジューシーで美味しい。が、残念ながら

銘子には食欲がなかった。


「銘子のナイフとフォークの使い方、いいねぇ」


パトちゃんが目を細めて云う。

何でもかんでも褒める対象になっているのか?と

銘子は思ったが、そうでもないらしい。


「最近の若いのは、最初は右手でナイフを持ってても、

 すぐに右にフォークを持ち替えて

 食べ出すんや。これはあかんわぁ。

 でも銘子はちゃんとナイフとフォークで食べてるなぁ。

  うん。ええなぁ」


最近の若いものは箸もちゃんと持てない!

と嘆く日本のおじさん、おばさんしかり、

フランスでもそういうのがあるんだ、と銘子は妙に感心した。

が、素っ気なくこう云った。


「あ、そう?…だって私、左利きやもん!」


「うん。でもええねん♪」


パトちゃんは微笑んでいる。


ふと見ると、フォアグラはバクバク食べているのに、

鴨肉の脂(皮)を丁寧に切り取っている。


「何してるの?」


「わし、コレステロール溜まってるねん。

 薬もほら、食後に飲まなあかんし」


「でもフォアグラをさっきから食べてる…」


「あ、フォアグラはええねん。これは大丈夫!

 えっと…タバコ、吸ってもいい?」


そういえば、空港内で並んでいるときから

何度もタバコを吸いに列を離れていたっけ。


「一日にどれだけ吸うんですか?」


「えっと…一箱かな」


パトちゃんは薬を水ではなくワインで飲み、

タバコに火をつけた。

かなり、健康に対して矛盾したおっちゃんだ。


「えっと、これが一番上の子供で、次の子が…」


いつの間にかパトちゃんは財布から子供たちの写真を

取り出しては銘子に見せてくれる。

ずっと若いときに奥さんと別れたにしては、

(最近の写真だ、と云って見せてくれた)下の子が幼い。


なぜか自慢そうに自分の運転免許も見せてくれる。

20代くらいか、もっと若いパトちゃんがそこにいた。


フランスでは免許の書き換えがなく、

免許を取った時点での写真がず〜〜っと使えるとは

聞いていたが、本当にそうなのだ。

日本もそうすればいいのに。

3〜5年ごとに確実に老いているのを

確認させられるのだから!


「銘子の旦那さんの写真は?」


しまった〜〜〜っ!

仕方ないので、口からでまかせに

「日本人は家族の写真を持ち歩かないの!」

と云っておいた。


日本でも、結婚している人は持ち歩いているのだろうか???

本当のところを銘子は知らない。


清算のときになって、銘子が払おうとすると

パトちゃんはそれを制した。

先ほどのオレンジジュースも奢ってもらったし

これは今日つき合ってもらったお礼だからと

銘子が云っても聞いてくれない。


パトちゃん、ペッ!だった。


(『払う』というフランス語は payer といい、

  動詞の活用をすると

  Pato-chan paie.…パトちゃん、ペッ!となる。

  え? 最終的に『カトちゃん、ペッ!』に引っ掛けたくて

  Patrickをわざわざパトちゃんと呼んでたって?

  おほほ…)


手を握って来る、逃げる、

髪を撫でて来る、逃げる、

この攻防を続けながら何とか

Gare Lyonに着いた。


パトちゃんは一回でいいから

キスさせてくれと懇願する。

ホームで一回だけ、ほっぺにならいいよ、

と銘子は諦めて云った。


17時15分。あと5分で発車だ。

やっとパトちゃんから解放される。

酔狂にも、誘いに全く乗らない女に

丸一日つき合ってくれたパトちゃんはいい人だと思う。

無理矢理どこかに連れ込まれる危険だってあるんだし、

そう考えたら彼はいいおっちゃんだった。


ホームでパトちゃんは銘子を抱きしめた。

ほっぺにキスして、もう一方の頬にキスして、

また往復するのかと思ったら

方向がずれている!


危ない!


パトちゃん、本気でちゅ〜するつもりだ。


絶対に銘子はパトちゃんにそこまでは許せない。

必死に逃げて握手して列車に飛び乗った。


窓の外、ホームでパトちゃんがにこやかに手を振っている。

「月曜日、連絡待ってるよ!」


駅構内のカフェで、銘子がParisに戻って来る月曜日の

夕食を一緒にしようと無理矢理約束させられたのだ。

パトちゃんに悪いが、これ以上の誘いに乗ると

パトちゃんの思うつぼなので、銘子は勿論、

連絡するつもりはない。

ごめんね、パトちゃん。


そう思いながら銘子が手を振ると、

静かに列車は走り出した。


「はぁ〜。何て一日だったんだろう」


銘子は一刻も早くNarbonneのホテルに着きたかった。

髪にしっかりついたタバコの香りを

すぐにでもシャワーで洗い流したかったのである。


しかし、まだまだ銘子の長い一日は

終わらなかったのである!!

posted by 小池 紫 at 08:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行記