2010年08月07日

フランス危機一髪! '07 <第七章>

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 第七章   Paris散策と、Louvre(ルーブル美術館)デビュー! 

 

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10月30日の朝、銘子はホテルの部屋でゆっくり目覚めた。

それでも午前8時過ぎだ。

旅行中に目覚ましをかけなくても昼まで寝過ごすことはない。

 

身支度を整えてホテル近くの地下鉄Vavin(ヴァヴァン)駅前

にある老舗カフェに向かった。

 

一度だけでいいから豪華な朝ご飯というのを経験したかったのだ。

1927年の創業以来、コクトー、ダリ、ピカソ、サルトルが

出入りしていたという歴史的なカフェ、

La Coupole(ラ・クーポール)。

 

パリっと糊のきいたテーブルクロスのテーブルに通される。

メニューを見てぶっ飛んだ。え?朝ごはんに14ユーロ?

(当時のレートは1ユーロ=165円くらい)

 

でももう座ったことだし、ま、一度くらいはいいっか!

と銘子は注文した。

 

 

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フレッシュジュースにパンが4種類。

中央の柱のそばに大きなパンのカゴがあり、

そこからパンを取って出してくれる。

バターはISIGNY(イズニー)だ!

ジャムもプラのパッケージではなくビン入り。

 

いや〜ん。食べ放題よっ!

…しかし、どう頑張っても銘子にはパンを二個、

コーヒーを二杯までが精一杯なのであった。

 

ふと見ると、フロア担当のおばさんが客が

席を立ったテーブルを整えている。

カゴに残ったパンはさっきの大きなパンカゴに

ポイポイ投げ入れる。

 

え?またそのパンを次の客に出すの?

ま、手を付けてはいないだろうけど…

昨日のパンじゃないだろうな?

銘子は少し興ざめした。

 

この日はパリ市内を散歩しながら母親に頼まれた手芸用品を

買いに回るのだ。

天気は上々。空がきれいだ。そこらの風景が美しい。

 

 

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まずはSèvres-Babyloneまで歩いてLe Bon Marché

(パリ最古のデパート・1870年創業)でトイレ休憩。

ついでにここのモード館で少しチェックを入れる。

 

次にLes Halles(レ・アル)駅までプラプラ歩き、

St-Eustache教会近くのla droguerie(ドログリーという

日本にも展開している手芸店)を覗くが収穫はなし。

仕方なく、St-Eustache教会前の広場のオブジェ

(森永か明治のチョコレート菓子ぷっちょのCMで見たという

人もいるかも)を撮影。

たまに目の玉を落書きする輩がいるそうだ。

 

 

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銘子は次の目的地であるSt Lazare(サン・ラザール)駅に行くが、

大型手芸店Mode&Travauxでも収穫はなかった。

意地になった銘子はそこからCadet駅まで歩き

小さな手芸店でやっと頼まれていた

バッグの持ち手買うことが出来た。

 

 

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そろそろ痛くなって来た足を引きずりながら

またLe Bon Marchéまで戻って食品館で買い物をし、

ホテルに戻るといい加減おなかが空いてきた!

昼食を摂っていなかった銘子は少し早めの夕食を求めて

ホテル近くのOdessa Cafeに向かった。

 

注文して料理が来るのを待つ間、今日の散歩の途中で

買い求めたカードに姪っ子への便りを書いていると…

来た来た!美味しそうな鶏さんがっ!

 

 

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思わずがっつき始める銘子。

しかし、写真を撮るのを忘れた!と気がついて

あわてて撮影するのだった。

(写真の肉が欠けている…)

 

すると斜め前の席のインド系の若いおにいさんが

何か云っている。

 

「え?」

「冷めるよ!」

「え?」

「早く食べないと冷めてしまうよ!」

「あ、ありがとう」

 

銘子は撮影を止めて食べ始めた。

カリッと焼けた皮にジューシーな肉。

カリカリポテトも美味しい。

あっという間に平らげてしまった。

気がつくとおにいさんはいつの間にかいなくなっていた。

 

食後の散歩がてらに近所の大型スーパー

Monoprix(モノプリ)をフラフラして

寝酒のビール2缶を買って帰る。

 

シャワーを浴びてビールを飲みながら

テレビを見ていたはずの銘子だが、

たくさん歩いたからか

あっという間に眠りに落ちてしまった。

 

10月31日。7時起床。

 

ホテル近くのEdgar-Quinet駅前の朝市を

冷やかした後、近所のパン屋さんの

イートインで安い朝食を摂る。

クロワッサン、プチデニッシュ、カフェオレで

4.3ユーロだった。

昨日とえらい違い!

やっぱり朝食はこのくらいの値段でないと!

銘子は確信するのであった。

 

 

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たぶん常連客だろう相手にだけ、

焼きたてのクロワッサンを勧めている。

「いいなぁ…」 銘子のはもちろん冷たい。

ま、コーヒーが温かいからいいっか。

 

午前中はGaleries Lafayette(デパート)で

買い物をする予定である。

姪っ子たちへのパリ土産は洋服と決めている。

ここではすでにクリスマスの飾り付けが始まっていた。

 

 

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これに点灯されているのを見たければ、

クリスマスの時期にここに来ないと無理だなあ…

数日後にはパリを発つ銘子はため息をつくしかない。

店内のクーポール(丸天井)に向かってそびえるツリー。

 

銘子は周りの視線も気にせず、床に這いつくばるようにして

写真を撮り続けるのだった。

 

 

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やがて銘子は買い物を済ませて

荷物を置きに一旦ホテルに戻った。

いつも缶ビールを買う、持ち帰り中華屋さんの

イートインスペースで、昼食を摂ることにした。

ふと、ウィンドウのチャーハンに釘付けとなった。

ああ、米が食いたい。

 

吉本の往年の漫才コンビ、

こずえ&みどりのみどり姐さんに

そっくりのおばちゃんが

「このくらい?」 と盛ってくれたチャーハンに

「うう…もう少し多めに」と云いながら、

ついでに大好きなベトナム風揚げ春巻きも注文する。

あ、その野菜炒めも!

 

システムは簡単だ。

ショーケースに並ぶ総菜を適当に選んでチン!

してもらうのだ。

もちろん飲み物は1664(セーズ)!

 

 

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あまりの大盛りにチャーハンが崩れてきた。

銘子好みの、ふうふうしないと食べられない程まで温めてくれた。

そして、それでも、やはり、上あごを火傷する銘子なのであった。

学習能力がないのか、熱いものでも、滅多にふうふうしない。

ただの馬鹿なのか。

 

隣のテーブルにいた4人の家族連れの子供が

興味津々でこちらを伺っている。

先の尖っていない中華風の箸を使って

米粒を食べている東洋人の女が珍しいらしい。

 

やはり食べにくい…

一瞬スプーンを使おうかと思ったが、子供の視線に

気付いた銘子は最後まで箸で食べることを決めた。

何でこんなとこで意地になるねん。

 

最後の一粒を食べきるところまで家族連れは…

いてはくれなかった。

ショーケースの向こうにみどり姐さん。テーブルに銘子。

二人きりになってしまった。

気詰まりなので姐さんに話しかける。

 

「マダム!おいしいですぅ!」

「あ、そう?ありがとう」

「ここ、5日程米を食べてなかったし…

 ほんと〜においしいです!」

「日本人や中国人はよくそう云うわ」

 

みどり姐さんは少しベトナム訛りの

コロコロと転がるようなフランス語なので

聞き取り辛いが、何とかそれからしばらく会話が成立した。

 

大満足で店を出て、銘子は

エッフェル塔と凱旋門に会いに行った。

 

前日に傷めた足の指が痛い。

子供の頃の怪我が元で、銘子の左足の薬指はいつも

中指に踏まれ続けている。

 

普段はどうってことはないのだが、

長く歩くと悲惨なことになる。

あ〜あ、テーピングしておくんだった。と思っても後の祭。

足を引きずるようにして銘子は

地下鉄の階段を下った。

 

エッフェル塔の足下にこの塔を建てたエッフェルさんの

銅像があるのを見たことがあるだろうか?

 

 

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いつも塔ばかりを見ていて今回初めて気がついたのだった。

ひっそりとエッフェルさんの銅像は見つめている。

自分が作った塔に上ろうと

アホみたいに長い行列を作っている人々を。

 

 

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日が傾いてきた。

急いで凱旋門に向かい、夜の撮影のポイントを探す。

さあ、日没までにモンパルナスタワーの展望台に行かなくちゃ!

 

 

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まず、エレベータで56階へ。料金は9.5ユーロ。

 

ホールを一周したらありました。テラスへの入り口が。

 

 

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ここから外に出てダイレクトに景色を楽しむのだ。

しかし、おのずとダイレクトに風を受ける。

晩秋のパリの59階の屋上って(パリでなくても)…寒い。

 

まずはミニ三脚を手すりに乗せてベストポイントにスタンバイ。

 

 

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午後4時半過ぎの景色。

そこからぴたりとも動かずに数分ごとに写真を撮り続けること

2時間。エッフェル塔のてっぺんのサーチライトが回りだす。

 

「1、2、3、4、…」

 

ゆっくり23数えると一周するので、

シャッタースピードを考慮に入れてシャッターを押す。

 

 

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さすがに2時間もいると歯が勝手にガチガチいうほど冷えてきた。

限界だ。手の指もかじかんでジンジンしてきた。

 

身体を温めるべく、タワーを降りてすぐに、

銘子は前日に行ったOdessa Cafeで

オニオングラタンスープを注文。

グラスワインももちろん一緒に。

 

 

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10ユーロでしっかり温まって、銘子はまたカメラを片手に

エッフェル塔と凱旋門へと

写真を撮りに行くのであった。

…が、しかし、モンパルナスタワーでの撮影で

ほとんどの電池を使ってしまい、あっけなく撮影は終了。

 

またもや缶ビールを買ってホテルに戻るのであった。

 

さ、11月1日は朝からLouvre(ルーブル美術館)だっ!

 

入場券は9ユーロ。入ってすぐに売店で朝食を調達。

サンドイッチと水を購入。

これはちょっと高めの7.4ユーロだった。

 

 

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半地階のロビーの床にはピラミッドの先端が刺さっている。

 

 

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つまり、ルーブルの中庭にあるオブジェのガラスのピラミッドが

反対側の地下にも伸びているような形になっているのだ。

 

 

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このガラスのピラミッドを囲むように

リシュリュウ翼、シュリー翼、ドゥノン翼と三方の建物がある。

ささと朝食を済ませて、まずリシュリュウ翼から入場した。

 

さあ、Louvreデビューだよっ!

 

 

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    第八章  ルーブルのトイレ事情と最後の晩餐 

 

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お楽しみにっ!

 

 

posted by 小池 紫 at 17:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行記

2010年08月01日

フランス危機一髪! '07 <第六章>

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   第六章  悪夢、再び…Toulouse-Paris 

 

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快晴の空のもと、Carcassonne駅からTGVは滑り出した。

今回初めて乗ったTEOZ(新車両?)の椅子は

とっても座り心地がよく、これならParisまで車窓を楽しむのも

悪くないのにな〜、と電車好きの銘子は思った。

 

 

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そしてつい、♪世界の車窓から♪ を口ずさみながら

写真を撮ってみたりするのだった。

 

 

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そんなことをしていたらあっという間に列車は

Toulouse Matabiau駅に到着した。

 

午前11時16分。

 

ともかく、空港バスが出ている場所を尋ねると

駅のすぐそばのバスターミナルから出ているとのこと。

運行スケジュールなどを確認してから駅構内に戻り、

地下鉄で中心街へ向かった。



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大阪ニュートラムや神戸ポートライナーと同じ仕様で、

ホームのドアと列車のドアの二重扉になっている。

まずは“キャピトル広場”を目指す。

ここにツーリストインフォメーション(観光案内所)が

あるはずだ。

 

ここでざっと主要な観光ポイントを地図に記してもらって散策だ!

と、思ったらおなかが空いて来た。

そういえばお昼ではないか。

 

銘子はガイドブックに載っていた、

Brasserie FLO Les Beaux Arts に行くことにした。

 

もともと歴史あるレストランだったらしいのだが、

今はFLOグループのチェーンになっているようだ。

レトロな内装の中、お手軽メニューがあるようなので、

その選択をした。

 

広場を南下し、大通りに出たところで西に進むと

すぐに Garonne川にぶつかる。

このPont Neuf (Toulouse 最古の橋)のたもとにその店はある。




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通されてメニューを見る。

隣のおじさんたちのボリュームある皿を見ていたら、

どうしても前菜とメインの両方を食べきる自信がなかった

銘子は変則的ではあるが、前菜だけを頼むことにした。


 
 


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写真で見ると、どう見てもデザートに見えるだろうが、

いやいや、これが。

 

甘くないパイ生地の上に、タルトタタンのように煮たリンゴ

(甘くない)が載り、その上にもちろん甘くない

『フォアグラのアイスクリーム』が載っているのだ。

 

飾りはあさつき。

ソースはチョコレートではなく、バルサミコソース。

 

絶妙のバランスとハーモニー。

 

銘子は大満足で 1/4 Pichet(250ml入りのキャラフ)の

赤ワインをじっくり楽しんだ。

 

店側からしたら、儲からない客だ。

すんません。

 

申し訳ないので(?)いえいえ、

まだおなかに余裕があったので

久しぶりにデザートを頼んでみた。

 

ボリュームのあるものは無理なので、やはりここは

Crème Brûlée(クレーム・ブリュレ)にした。

 

これなら完食できる。

 

それでもやはり多い。直径20cm、深さ1.5cmは確実にある。

 

 

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エスプレッソもいただき、ゆっくり食事をして店を出たら

すでに午後2時を回っていた。

何だか風が出ていた。

 

雲行きがおかしい。

 

しばらく歩くとポツポツ雨が降って来た。

バッグに入れてあった折りたたみの傘をさそうとすると、

なぜか骨が折れていた。

縁起でもない。どうして折り畳んだ状態で骨が折れるんだ?

 

雨が降ったり止んだりするなか、暗い空の風景を撮りたいと

思わなかったのでそのまま銘子は地下鉄に乗り、

空港バスの乗り場へ向かった。

 

雨が本降りになっていた。

15時ちょうどのは出てしまっていて、

次の15:20発のバスに乗り込んだ。

空港までは30分だそうだ。

料金は4ユーロ(680円しない)。

タクシーに乗るよりはずいぶん安い。

 

銘子の乗る便は AF6135 で、Toulouse17:15 発だ。

空港には15:50頃に到着した。ちょうどいい時間。

すぐに2階のチェックインカウンターへ向かう。

 

あれ?どうしてこんなに人でごった返しているんだろう?

どうしてこんなにむやみに列があるんだろう?

 

銘子の脳裏に2日前の悪夢がよぎった。

 

「まさか…!」

 

まだ航空会社のストの混乱は続いていたのであった。

とりあえず、列の最後尾の人に尋ねて

そこがパリ行きの列であると確認した。

しばらく銘子はそこに並んでいた。

 

「飛んでいる便に変更してもらったんだし。大丈夫!」

そう自分に云い聞かせながら。

 

しかし…猛烈な焦燥感。

 

最前列はどうなっているんだろう?

そこからは見えない。

 

前にも述べたが、一人旅のときのこういった場合、

誰にも「ちょっと様子見て来るわ!」と

荷物は頼めない(荷物の所有権を放棄するなら別だが)。

そうかといって、列を荷物ごと離れたら最後、

また最後尾につかなくてはならない。

 

そのとき、なぜか銘子はそのまま列に並んでいては

いけない気がした。

 

「ええい!また並び直してもいいや!」

 

やはり、列の最前列はカウンターにつながっていなかった。

ロビーの真ん中に張られたロープがあるだけだった。

 

酸っぱいものが銘子の喉に込み上げて来た。

焦りながらチェックインカウンターを見回すと、

一番左のカウンターに人がいた。

誰かが交渉している。

 

「ここだ!」

 

銘子はその人の真後ろで自分の順番を待った。

また酸っぱいものが込み上げて来る。いかん、いかん。

吐いている場合ではない。

 

自分の番になった。とりあえず、こう聞いてみる。

 

「あの…私の飛行機の予約番号はこれなんですが、

 どのカウンターでチェックイン手続きすれば

 いいですか?」

 

昔の人形劇・サンダーバードの次男に似ているお兄さんが

無表情でコンピューターのキーボードを叩いてすぐに云った。

 

「その便は欠航です」

 

銘子の血の気が引いた。

 

「これは変更した便です!これは飛んでいるということで

 変更したんです!

 なぜ?どういうこと?私は今夜、パリに行きたいの!

 着かなくてはいけないの!

 どうすればいいのぉ〜っ????!!!!!! 」

 

考えるよりも早く、すらすらと叫んでしまった。

たぶん、文法も単語も動詞の活用もおかしかったと思うが、

通じたようだ。

何てったって、勢いが違う。

 

「15:55発の便にもしかしたら席があるかもしれません。

 しかし、今、乗客リストを作っている最中です。

 そこで待っていてください」

 

彼が視線で示した壁際に行くしかなかった。

銘子の後ろに控えていた次の客が

すぐにサンダーバードに覆いかぶさるように話しだした。

 

すでに16時は回っているのに、15:55発の便???

 

どういうこと?

 

自分の聞き間違いか?

しかし、ここで待つように云われたのだから待つしかない。

また酸っぱいものが込み上げて来た。

 

銘子の乗るはずだったTGVはToulouseを13:14に出て、

Parisには19:05に到着するものだった。

もし、もしもあのままTGVに乗っていたら今頃は…

いや、そんな“たら・れば”の話を思っても仕方ない。

 

今から雨の渋滞の中、タクシーを飛ばして駅に向かっても

17時を回る。

そこですぐに発車するTGVがあるかどうか?

なかったら?

満席だったら?

駅で夜明かしをするか、この空港内で朝を迎えるか?

 

究極の選択をしながら辺りを見回して銘子は決めた。

もし、サンダーバードがどうにもしてくれなくても、

空港内にいる方が安全に思えた。駅で寝るよりはマシ!

 

後で考えれば、そこまで悲壮な決意をしなくても、

翌朝の便に変更して、またToulouse 市内のホテルを

とればいいものだが、そのときの銘子には

全くと云って余裕がなかった。

 

ふと気がつくと、先ほどの後ろに並んでいた客が

『つい立て』のごとく、銘子の真ん前に立った。

これではサンダーバードから私が見えなくなってしまう!

 

銘子は否が応でもサンダーバードの視界に入る場所に移って、

必死のアイコンタクトを取るのであった。

 

銘子の熱視線で焦げたのか、サンダーバードが呼んだ。

 

「フライグブルーカードを…」

 

間髪を入れずにカードをカウンターに出す。

 

彼は全く無表情で会員ナンバーを打ち込む。

 

「では、もうしばらくそちらでお待ちください」

 

銘子は涙目で頷いた。

涙でかすんだ目で見上げると

そこには“WaitingList”と標示が出ていた。

 

よく分かっていない銘子だが、

あのまま列に並んだままだったら、埒があかないというか、

どうしようもないことになっていた、

ということだけは分かった。

 

サンダーバードに唾がかかる勢いでイタリアか

スペイン人のおねえさんが文句を云っている。

その後ろに暗い目をしてアフリカ人が3人で

仰天するほどの荷物を持って並んでいる。

段ボール箱にゆる〜く紐をかけただけのものだが、

箱の大きさが半端ではない。そしてそれが

3個、4個、いや、5個。あんなん持って

飛行機って乗れるのか?

 

いやいや、そんな人の心配している場合ではない。

 

銘子の後で銘子と同じようなやり取りをしていた

オネエサンが「そこで待つように」と隣に来た。

 

軽く鼻歌を歌っている。次のオネエサンもそばに来た。

すんごい冷静だ。

銘子と違って、焦っている雰囲気が全くない。

 

気になるので、そのオネエサン達に聞いてみた。

 

「私たち、パリに到着出来るんでしょうかねぇ?」

 

オネエサンは軽く、

「行けるんじゃない?」と云って、また鼻歌を歌いだした。

 

銘子は今、“ものすごく大丈夫”な状態なのか?

確実に乗れるのか?

 

いや、楽観視は出来ない。チケットをもらうまでは。

いや、チェックインをするまでは。

いや、飛行機に乗るまでは。

いや、その飛行機が飛ぶまでは!

い〜や!その飛行機がParisに無事に到着するまでは

誰も何も信じるもんか!!!

 

サンダーバードが顔を上げて銘子に呼びかけた。

 

「マダム !」

 

カウンターに飛んで行った。

チケットが渡される。15:55発のAF7787便のだ。

 

「あちらでチェックインしてください」

 

「ええっ!Parisに帰れるの?」

 

「はい」

 

サンダーバードは眉を動かさずに答える。

 

「ありがとう!ありがとうっつつ!!!」

 

タグをつけられた荷物が、ベルトコンベヤーに揺られて

向こうへ消えていった。

 

「搭乗口はあちらです、マダム」

 

「はい、ありがとうっ!」

 

搭乗手続きの荷物検査でベルトを外せと云われる。

ベルトでも何でも外すわ!帰れるのだったら!

 

搭乗がすでに始まっていた。

すぐに乗り込む。満席だった。

時計を見ると、16:50だった。

空港到着が16時前だったから

かれこれ1時間ほどの出来事だったのだが

銘子にはもっともっと重く長い時間だった。

 

機長のアナウンスが流れた。

 

「当機は18:30、Parisに到着します…」

 

「…ほぼ…予定通りにParisに帰れる…じゃない!!

 何?…いったい、何だったんだ?…この1時間はっ?!」

 

窓際で銘子は一枚写真を撮った。

どうも、目が潤んでいたのか、雨で窓が濡れていたのか、

“涙のToulouse Blagnac空港”とでも名付けようか。

 

 

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Paris CDG空港には定刻通りに到着した。

すっかり土砂降りである。

タラップを降りて空港内へ向かうバスに乗り込むまでにかなり濡れる。

でも構わない。だって、もうここはParisなんだもん!

 

荷物も無事に出て来た。

まだこの時間だったらRERでも大丈夫(な時間帯)なのだが、

もう銘子は疲労困憊だった。

 

で、タクシー乗り場へ向かい、

行き先のホテルの名前&住所を告げて軽く目を閉じた。

 

雨のラッシュアワー。またもや渋滞に巻き込まれながら、

やっとホテルに到着した。

ここで我に返った銘子は、ホテルの3軒向こうの

中華総菜屋さんに寄って夕食代わりのビールを買うことを

忘れなかった。

 

 

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預けておいたスーツケースを受け取り、部屋に入った。

 

「帰って来た…帰って来られた…うそじゃない…」

 

声に出して云ってみた。

ビールを一口飲んだ。うそじゃなかった。

 

スーツケースから充電済みの電池を装着し、

携帯からメールで無事に帰って来た旨を桐子と俊に伝えた。

 

俊に変更してもらった便が飛ばなかったことは、

彼らが知っているはずで…きっと心配していると思ったからだ。

 

行き違いにメイルを受信した。

 

このレンタル海外用携帯は

FOMAカードを入れ替えているので

普段使っているメイルアドレスに送られたメイルを

そのまま受信する。

もちろん受信料金は海外ということもあって高くなる。

 

だから選択して受信することも出来るのだが、

今回の渡仏を銘子はほとんどの友人に伝えていたので

特別な操作をしないでいた。

 

いったい、誰だろう???

 

送り主は何と…ノブリン(元カレ)だった。

(以前、メルアドを教えるはめになり、

 それからたまに携帯にメールが届くのだ。

 もちろんこちらから返事はしない)

 

『おはよー! 銘子、映画観に行けへんかー?

 メルアド、新しいこっちに変更しといてー』

 

「誰が行くかい!」

 

銘子は消去しながら、ビールをもう一口飲むのだった。

 

 

つづく

 

 

次回、

 

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  第七章   Louvre(ルーブル美術館)デビュー! 

 

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をお楽しみに!

 
 
 
posted by 小池 紫 at 15:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行記

2009年12月26日

フランス危機一髪! '07 <第五章>

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    第五章  世界遺産の街、Carcassonne 

 

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久々の目覚まし(時計)をかけない朝。

機械的に6、7時前には目が覚めるように

なってしまった四十路ではあるが、

それでも疲れからか、今朝は7時過ぎに目が覚めた。

 

まずはシャワーだ。

パトちゃんのタバコの香りが髪に染み付いている。

すっきり洗い流し、身支度をして階下に降りた。

フロントデスクにいた女性にドライヤーを借りて部屋に戻り、

しっかり乾かす。…完璧。

 

一階にある食堂でゆったり食事を摂る。

デニッシュ、バゲット、クロワッサンが選び放題。

コーヒーもエスプレッソ、カフェオレ、そして紅茶、

ヨーグルト、ジャム、バター、ジュース…

もし食べられるなら、おかわりも自由。

 

銘子以外の日本人は泊まっていないもよう。

イギリス人っぽい中年夫婦とフランス人の老夫婦が

一緒の食堂にいた。

 

大きめのカップにたっぷりの濃いコーヒーを入れ、

少しだけ泡立てて温めてもらった

ミルクをたっぷり入れて飲む。

 

う〜ん、生き返る思い。

 

バゲットとクロワッサンとヨーグルトと

コーヒー二杯でおなかが一杯になった

銘子は部屋に戻り、デスクで計画を立て直した。

先日のような恐怖のストライキに巻き込まれるのは

もうごめんだ。

Parisへの帰りはTGV(フランス新幹線)を

使うつもりだった。

 

つまり、今いるNarbonneからCarcassonneへ、

そこで一泊してからToulouseへ向かう行程までは

列車を使い、そしてToulouse-Parisを

飛行機の予定であったが、それをやめてTGVに乗るのだ。

しかし、飛行機だと1時間で済むところが

TGVだと5〜6時間かかる。

 

今回の旅行の目的に、Carcassonneで昼・夕方・夜の

写真撮りまくるというのがあった。

 

天気予報を見ると、今日一日の天気は良いが

明日からは崩れるような感じであった。

今日一日の良い天気を逃せない!

銘子はCarcassonneに昼過ぎに入り、

夕方、夜にかけて写真を撮り、そして

翌朝Toulouseに向かって出発することにした。

 

そうなると、ここNarbonneでの滞在時間は

3時間ほどしかない!

勿体ないのだが行程上、仕方ない。

この近辺は南西ワインの宝庫だ。

FITOU、CORBIERES、MINERVOIS…。

カーブ巡りしたら楽しいだろうな。

 

おっと!こうしてられない!

慌ててチェックアウトし、荷物をそのまま

草刈正雄に預けてつかの間の散策である。

もちろん、正雄に12時台の

Narbonne―Carcassonneの列車の時刻は調べてもらった。

親切にも、3本ほどある、とプリントアウトしてくれた。

 

ホテルの前には人っ子一人いない。

静かな朝である。




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カメラを持って正雄がくれた地図を片手に街の中心街へと向かう。

日曜の朝だからか?誰もいない。静かな静かな通りを進んでいくと

川にぶつかった。ここがCanal de la Robineだ。

…って地図に書いてあった。

 

ここでは朝市が開かれていた。驚く程たくさんの人がいる。

町中の人がここに集まって来ているのか?

今日は洋服の市のようで、びっくりするような大きなショーツが

ぶら下がっていたり、セーターやコートが並んでいる。

鮮魚の卸売り市場のような呼び込みで服を売っているおっちゃん。




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ちょこちょこと写真を撮りながら進んで行くと

大きな建物に人々が吸い込まれて行くのが見える。

銘子も行ってみると、そこは常設の市場だった。




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中にはあふれる食材が。

 

野菜、肉、魚、花、はちみつ、ジャム、パン、

ソーセージ、あらゆるものが並んでいる。

 

ああ、ホテルでの食事を少し控えてくのだった。

と後悔する銘子であった。

 

この市場の前で写真を撮っていると

小さな小太りのおじいさんが声をかけて来た。

 

「ねえちゃん、こんなとこ撮ってんの?」

 

「はい、とても美しいですね」

 

「そうか。わしは毎週ここに来とるがな。

    きれいかぁ?」

 

「あの…この辺にツーリスト・インフォメーションは

 ありますか?」

 

「ツーリスト…わし、生まれてからずっとこの街に

 住んどるけどな、観光はしたことないから、知らんわ」

 

「ああ、そうですか、ありがとう…」

 

お礼を云いながら銘子がふと、何気なく

そのおじいさんの顔をまともに見ると、なんと!

そのおじいさんの鼻の頭から毛が生えているではないか!

そう、鼻の毛穴のすべてから黒い毛が

3mmほど伸びているのだ。

これが本当の『鼻毛』なんだろうな〜と

銘子は妙に感心してしまうのであった。

 

そのまま来た道を戻りつつ、大聖堂の前までくると、

なぜかそこにはかなり古い

(車の知識がない銘子が見てもそう思う)

シトロエンが並んでいる。

 



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どうも、シトロエン同好会のようで、

見せ合いっこしているようだった。

これからどこかに行くのだろうか?

 

おっと、時間がない。

銘子は慌ててホテルに荷物を取りに戻り、

それからすぐに乗れる列車のチケットを買った。

12:49 Narbonne 発、13:20 Carcassonne 着のTGV。

少し時間があったので売店でお昼ご飯のサンドイッチを買った。

 

 


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ご存知の方も多いだろうが、フランスでサンドイッチというと

バゲットにチーズとハムを挟んだものを云うのだ。

何てことないのだが、パンもハムもチーズも安物なのに旨い。

塗ってあるバターも旨い。

これを銘子は駅のホームで平らげた。




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昨日の夜、ここで何があったのか…知ぃ〜らないっと。

見てないもん。

 

ホームに入って来た列車に乗り込み、30分程で

ヨーロッパ最大の城塞都市、Carcassonneに到着だ。

 

まず先に、駅構内で明日のParisまでのチケットを手配し、

いざ出発!

 

ここには一度来たことがあるので何となく地理は分かる。

駅前に立て込んでいた城下町を抜けて川に出た瞬間、

橋の右側にCarcassonneが誇るLa Citéの城壁が見えて来た!



tkg'07-15.jpg


今回は、この中世の雰囲気をそのまま残した La Cité Medievale の

正面に位置するホテルを予約してある。

ここは今回の旅行の行程で相談に乗ってくれた銘子の仏語教師・

俊のお薦めの宿である。

 

まずホテルにチェックインする前に近づいて来る景色を

撮りまくる銘子。

 

Pont Neuf(新橋)から城をのぞみ、

そして川を渡ってすぐまたPont Vieux(古橋)を

戻り、そこからまたLaCitéを撮る。美しい。




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「よし!今日は夕暮れからここに陣取って

 日がとっぷり沈むまでここで写真を撮ろう!」

 

銘子は決心し、ホテルへ向かった。

ここは初めてのシステムで、まずチェックインの際に

部屋の鍵と数字が刻印された札を渡される。

銘子の部屋は別棟になっていて、そこのオートロック解除の

暗証番号が刻印されていたのだ。

 

チェックインした建物を抜けて道路を渡ったところに

別棟があり、云われた通りにロックを解除して部屋に入った。

なんて素敵なお部屋なんでしょ!可愛い!

浴室の白いタイルの目地がなぜか全てピンクだ。

おしゃれだ。白いタイルにピンクの目地。かわいい。

 

おっと、感動していて時間を忘れそうになってしまった。

銘子はカメラだけ持つと、城塞(La Cité Medievale)

の中へ出発した。

 

観光客で一杯の街。土産物屋を冷やかしたり、

ワイン屋さんをのぞいたり、そしてカフェで

ビールを飲んだりして日暮れを待つ。

 

日が西の空に傾き、空がオレンジ色になってきた!

よし!

 

銘子はミニ三脚とカメラを抱かえてPont Vieux(古橋)へ。

途中、おじさんが声をかけて来る。

 

「おねえちゃん、いい写真撮ってね!」

 

「ありがと〜!」

 

橋の端(?)に腰掛けて三脚を据える。

そして数分ごとに同じアングルで写真を撮る。

 

そう。徐々に暮れて行く空気の中の城を撮って

パラパラ漫画を作るのだ!




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冷えていく晩秋の夕暮れ。

石の橋に座っていると、お尻が冷えてかなわない。

ライトアップされた城壁が白く光る頃になって、

銘子はやっと写真を撮り終えて夕食に行くことにした。

城壁の中には土産物屋もレストランも沢山あるのだが

日曜の夜だからか、どうも人出が少なかった。

そして、やはり、ここで食べるのは…



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Cassulet(カスレ)でしょ〜!

白インゲン豆とソーセージとローストした鶏肉の煮込み?

(煮込んだ後でオーブンで焼く)ま、コクのある地方料理だ。

赤ワインを頼み、ちびちび飲みながら熱々のカスレを食べる。

おいしい〜っ!

 

が、やはり最後までは食べきれない。

延々、鍋に豆が沈んでいる。申し訳ないが残す。

デザートも入らない。満腹だ。

 

ゆっくりホテルまで戻って電池残量が残り少ない携帯に

電源を入れてメイルチェックをする。

俊から『ワン切り許す!』とメイルが入っていた。

云う通りにワン切りすると折り返しホテルに

電話がかかってきた。

 

「とにかくCarcassonneまで来たんや。

 よかったね〜、無事で。

 で、Parisへの帰りはどうすんの?」

 

「いや、もうあんな思いは嫌やから

 TGVで帰るよ」

 

「でも結構の便がもう普通に飛んでるで〜。

 時間が勿体ないやんか。

 乗れる飛行機に変更したら?」

 

「う〜〜〜ん。でも…いい。ややこしいし、

 もうTGVのチケット買ったし」

 

「ちなみに銘子の便の予約No.は?」

 

「えっと…YPB413やけど…」

 

「分かった!変更出来るか調べといたるわ!」

 

電話は切れた。

銘子は俊に

 

「ともかくAF6133便がannulée(欠航)か

 どうかだけ調べてくれますか?」

 

とメイルを送った。

 

翌朝、また俊から電話が入った。

 

「AF6135に変更できたで!

 予約No.は変わらへんからそのまま

 チェックインカウンターで

 その番号云うたらOKやで」

 

「ええ?や、でも…」

 

「今回は無料航空券で行ってるから、

 Toulouse-Paris間で搭乗実績を

 作っとかなアカンねんやろ? 

 行きでTGV乗ってしまったから、

 帰りはもう飛んでるんやし、

 飛行機に乗っといた方がいいのとちゃうか?」

 

「あ、そうか。今回、飛行機に乗っとかんと、

 今までのカードの買い物マイルが

 全部無効になってしまうのか。」

 

「17:15 Toulouse 発で、18:35 Paris 着。

 15:30〜16:00までに

 空港に行っといたらいいから

 それまで時間を有効に使えるで!

 ほな、そのまま旅行を楽しんでくださ〜い!」

 

「あ、ありがとう!」

 

そっか〜。今回の銘子のビジネスクラス航空券は

貯まったマイルで交換したもの。

エールフランスVISAカードで買い物したり、

カード引き落とししている光熱費等のマイルの

有効期限は1年間。その有効期限は搭乗実績があれば、

3年に延ばすことができるのだ。

(*'07年当時のお話)

 

銘子の周りにも無料航空券欲しさに

マイルをせっせと貯めながら、しかし時間的余裕が

なくてフランス旅行がままならず、

提携航空会社の大韓航空で韓国二泊三日をして

マイルの有効期限をかろうじて延ばしていた友人がいる。 

 

ま、これで丸く収まった。

とにかくToulouse-Paris間のTGVのチケットは

キャンセルしなくちゃ。

それで出来た昼間の数時間を、

銘子はToulouse 散策に充てることにした。

さ、そうと決まったら朝ご飯!

 

何が楽しみと云って、それが楽しみで

ここに宿泊したようなものなのだ。

朝食レストランには一人だけ初老のおじさんがいた。

 

「どこに座ろうっかな…!ここだ!」

 

ベストポジション。

ここは、城壁を眺めながら朝食がとれるのだ。

すばらしいロケーション。

 

 

 tkg'07-19.jpg



芝生の向こうに見える城壁。

温かいパンと熱々のコーヒー。

 

今日はここからTGVでToulouseに行き、

飛行機でParisに戻るだけ。

そうだ!Toulouseでちゃんとしたレストランで

ゆっくりお昼ご飯を食べよう。

 

毎度、サンドイッチというのも味気ないし!

 

そんなことを考えながら銘子はいつもよりも

ゆっくり時間をかけて朝食をとった。

 

また自分に降り掛かる災難には

気づきもしないで…

 

 

次回、

 

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  第六章  悪夢、再び…Toulouse-Paris 

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お楽しみにっ!

 

 

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2009年12月05日

フランス危機一髪! '07 <第四章>

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   第四章  ホテルはどこ???  

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順調に列車はAvignonへ向かう。

検札が回って来る。

あらかじめ、列車に乗る前にチケットを

『conposteur』に挿入して改札印を

つけておかないといけないのだ。

もし忘れると罰金徴収されるので、

銘子はもちろん済ませておいた。

 

Avignonまでは2時間半ほどの旅である。

学生時代に『旅行研究部』に属していて

北海道を周遊券で回ったり、

普通列車を乗り継いで九州まで行ったことがある

銘子なので、長い時間、列車に揺られることは

苦痛ではない。むしろ楽しい。

 

気がかりなのはAvignonでの乗り継ぎ時間が

10分程しかないこと。

どちらかにダイヤの乱れがあったら…

いやいや、杞憂に終わるよう、祈ることにする。

ともかく、携帯電話の充電ができないので、

電池が切れたら終わり。

 

Parisに戻るまで誰にも頼れない!

帰りの飛行機の運航状況なんて、どうやって

調べたらいいの???

でもまあ、まだ2日間もあるのだ。

ゆっくり考えればいい。

 

…ふと気になって鞄を探ると、

デジタルカメラの充電器は持っていた。

 

「よかった…」

 

疲れからか、銘子は軽く眠ってしまうのだった。

 

Avignonに到着した。

電光掲示板で確認したホームに向かう。

ホームにある掲示板には

その直前に到着する列車の情報しかない。

不安そうにきょろきょろしていたからか、

後ろにいたおじさんが

「どこまで行くの?」と聞いて来た。

 

Narbonneまでだと答えると

このホームで間違いない、と云ってくれた。

安心しながらも、掲示板を横目で確認するのを

銘子は忘れなかった。

 

無事に乗り換えもできた。

後はNarbonneに着くのを待つだけである。

 

席は向かい合わせの4人がけで

『SALLE』というものだった。

2人がけの座席が向かい合っていて、

その真ん中に長いテーブルが固定されている。

中央に向かって板が折り込んであるので

必要なときは手前に板を倒せば広いテーブルになるし、

乗り降りのときにはコンパクトに折り畳めばいいのだ。

 

先に座っていた20代の女の子二人連れは、

次の駅に着く前にテーブルに肘をついて

(固定しないとアイラインやマスカラが

 えらいことになる!)

しっかりメイクして、そして降りて行った。

 

てきぱきとあっという間に顔を作っていくのを

見ているのは面白かった。

(銘子の旅行中、こういう長距離列車内でしか

 この光景は見なかった。さすがに地下鉄では

 見かけなかった)

 

次の駅で残りの3席が埋まった。

銘子の正面には、真っ赤に染めたボブヘアーの

おねえさん。

その横にはさっきまで通路を挟んだ隣の席で

2人分占領して寝ていた黒ぶち眼鏡のおにいさんが

こっちへ移って来た。

実際にそこへ座る人が来たみたい。

 

銘子の隣には20代前半っぽい、やけに疲れた女の子。

列車が動き出してすぐに真っ赤なおねえさんが云った。

 

「マニキュア、塗っていい?」

 

全員が「ど〜ぞ」と云う。

まあ、化粧は勝手に始めるのだが、

マニキュアはにおいがするから

許可を求めたのだろう。

またこれも、さっさと手早く塗り、

乾くのを待たずに、すぐ器用に雑誌を読み出した。

 

Narbonneへは2時間弱で到着する。

銘子は持って来た文庫本を読みながら

列車に揺られていた。

 

あと10分でNarbonneに到着だと思ったら、

なぜか列車が減速を始めた。

そして駅ではないところで完全に停車した。

 

「え?」

 

列車内に『???』の空気が流れた。

と、そこへ車内放送が流れた。

 

「え〜、Narbonne駅で人身事故があったもようです。

この列車はここで最短1時間の停車をいたします〜」

 

どよめきが列車内に広がる。

 

「一時間?

 一時間って『最短』一時間でしょ?

 SNCFのことやし、いつになるんやら!」

 

真っ赤なおねえさんが云う。

 

「も〜最低〜っ!

 今日は友達の所為で列車に乗り遅れるは、

 やっとこれに乗れたと思ったら!

 私はいったいいつ、Toulouseに着くの????」 

 

不貞腐れた女の子が叫ぶ。

 

銘子も云う。

「私なんか、今日はストで飛行機は飛ばへんわ、

 列車に変更して、これやし!」

 

全員が苦笑いで云う。

「しゃ〜ないな〜」

 

ここから口々に、交通機関でいかに悲惨な目に

遭ったかの自慢大会が始まったが

銘子にはもうついていけない『早口の』話

(普通の会話速度だとは思うが)だったので

話の輪から外れて真っ暗な窓の外に目をやった。

 

「いったい、どれだけここに停まってるんやろう…」

 

最短で、と放送があった通り、軽く1時間が過ぎた。

それぞれが腰を延ばしにか、タバコを吸いにか

席を立って行った。銘子だけがそこに残された。

 

「いかん!」

Narbonneのホテルに更に遅くなると

連絡を入れなくては!

しかし、銘子の携帯は出来るだけ使いたくない。

緊急の事態の為に電源を温存しておきたい…。

 

通路を挟んだ隣の席にいたおねえさんが

携帯で話をしている。

やさしそうだ。…借りるしかない。

銘子が勇気を出して云うと、あっさり貸してくれた。

とにかく連絡はついた。

 

ホテルのおじさんは

『遅くなるのは構わないけど、表通りのドアは

施錠してあるから角の小道にある

小さなドアのチャイムを鳴らしてね』

と優しく云ってくれた。

 

もう、腹を決めて列車が動き出すのを待つばかりだ。

 

黒ぶち眼鏡のおにいさんは腹を決めて

線路沿いを歩いて駅まで向かうそうだ。

みんなが「がんばってね!」と声をかける。

 

真っ赤なおねえさんは、もっと人口密度の低い席を

見つけたのか、荷物を持って移動して行った。

 

銘子の隣にいた文句いいの女の子は正面の席に

横になってふて寝を始めた。

彼女のバッグは口を大きく開けたままテーブルに

広げられている。誰もそれを注意しない。

 

盗られたら盗られたもんが悪い、そんな感じである。

妙な親切心でバッグを閉めてあげても

触っているところを見とがめられたら困るし、

しっかり寝入ってしまった彼女をもう起こせない。

 

知〜らないっと。

 

停車してから2時間が過ぎた頃、

車内アナウンスが流れた。

「この列車はしばらくしたら発車致します…」

車内に安堵の空気が流れた。

 

22時に到着する予定が

0時を回ってしまうこととなった。

「よかった、駅前のホテルにしておいて」

銘子は駅から徒歩5分かからないホテルを

選んでおいたので少しだけ安心していた。

 

スピードに乗っていた列車が減速しだした。

いよいよNarbonneだ。

 

降りる客がそれぞれ荷物を棚から下ろしだす。

銘子は先ほど携帯を貸してくれたおねえさんに

挨拶をして席を立った。静かに列車は停まった。

 

さ、ホテルでシャワーだ!

眠れる♪

 

「あれ?」銘子は少しだけ違和感を持った。

 事前に調べたホテルの周辺地図では、

駅を突き当たりにして『T字路』のはずなのに、

なぜか駅前にロータリーがあり、

『放射線状』に道が駅から広がっている。

 

とりあえず一番広い道を進む。

少しだけ上り坂になっている。

通りの名前を確認しようとするが、

暗くてよく見えない。

かすかな明かりで見てみたが、どうも違うようだ。

人一人通らない午前0時過ぎ。

 

かなり不安になってきた銘子は、

一軒だけ明かりの灯ったバーのドアを開けた。

カウンターに3〜4人の男が座っていて、

カウンターの中に恰幅のいいおばさんがいた。

一斉に全員がこちらを振り向く。

 

思い切ってそのおばさんに向かって尋ねた。

 

「すみません、Pierre Semard通りを

 探しているんですが…」

 

「へ?Pierre Semard?

 聞いたことないねえ…知ってる?」

 

おばさんはそこにいる皆に尋ねた。

みんな、知らないという。

 

「あんた、どこに行きたいの?」

 

尋ねられるまま、銘子はホテルの場所を

記したメモを見せた。

 

「どれどれ…あれ?

 これ、Narbonne(のホテル)やんか!

 …ここ、Beziersやで!」

 

「へっ?」

 

列車がNarbonne到着10分前のところで停車したから、

それがNarbonne手前だと銘子が勝手に

思い込んでいたのだ。

 

「一駅…手前っ…?」

 

新幹線で一駅手前で降りた、ようなこと。

きゃ〜っ!

 

お礼の言葉もそこそこに、踵を返して駅に走る!

そして駅にいた係のおじさんに叫ぶように聞く!

 

「次のNarbonne行きの列車は

 どのホームに入るのっ???」

 

おじさんの教えてくれたホームで待っていると、

5分程して列車が入って来た。

 

同じように乗り込んだおねえさんと一緒に、

出入り口前の簡易座席に腰掛けていると、

検札係のおじさんが来て、チケットを検査するでもなく

そのおねえさんと世間話し始めた。

 

「よかったね〜。待ってた甲斐があったねぇ。

 遅れに遅れて、今日はこの列車が

 『最終』だからね〜」

 

『最終列車…』

 

おじさんの言葉を聞いて銘子はぞっとする。

Beziersの駅で夜明かしするところだった…。

あんなに寂しい駅で。

ああ、怖い、怖い。

 

念の為に銘子はおじさんに次がNarbonneかと

確かめておいた。

 

おじさんとおねえさんの世間話は続く。

銘子の耳にも分かる単語が入って来る。

 

『若い男、Narbonne駅構内、落ちた』

 

おじさんは自分の首をさっと切る真似をする。

 

おねえさんが『ひょえ〜〜〜っ!』という表情で

顔を覆う。

Narbonne駅で若い男がホームに落ちて

(自殺か事故かは分からないが)死んだことが

銘子にも何となく分かった。

 

列車が減速を始めた。

 

駅に着くと、地図の通りにT字路になっている。

当たり前か。

通りの名前もすぐに確認出来た。ホテルが見えた。

正面左の小さなドアの前に立つと、

チャイムを押す前に中からインターホンで聞かれた。

 

「どなた?」

 

「予約してたものです!」

 

「はいはい、待っててね」

 

今の草刈正雄が更に老けたようなおじさんが

出迎えてくれた。

優しそうなので、銘子はつい愚痴ってしまう。

 

「今日は飛行機のストに、列車の事故に…

 もうクタクタですぅ…」

 

「じゃ、記帳は明日にしようね。部屋に案内するよ」

 

階段で二階に上ってすぐの部屋に通された。

狭いが、何て天井が高いのだろう!

部屋の奥行きよりも天井までを測ったら、

その方が長いのではないか?

それだけが特徴の、あとはシングルベッドに

デスクがあるだけの簡素な部屋だった。

 

おじさんは「寒かったらエアコンつけてね」と云い、

すぐに出て行った。

 

バスルームを見ると、ドライヤーがなかった。

明日の朝、借りることにして、

とりあえず化粧を取り、足をお湯で温めて

そのままベッドに入った。

ともかく眠りたかったのだ。

 

長い、長い一日がやっと終わった。

 

つづく

 

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 第五章  

 世界遺産の街、Carcassonne をお楽しみに!

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2009年12月01日

フランス危機一髪! '07 <第三章>


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    第三章 パトちゃん、ペッ!


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決心した銘子は云った。


「Montpelier行きに変更する!」


何が何でも今日中にNarbonneに行くのだ!

飛行機でとにかく南に向かうしかない。


するとおっちゃんが「ついてこい!」と云う。

どうもMontpelier行きのカウンターに

連れて行ってくれるようだ。


すぐにMontpelier行きのカウンターが見つかった。

係のおねえさんは本心からかどうか分からないが、

すまなさそうな顔で「残念ですが…」と首を振った。


「どうする?」 おっちゃんがなぜかニヤニヤしている。


このスト中、絶対にParisに滞在するべきではない!

と銘子は確信する。


「列車で行く!」


「え? 5時間はかかるで」


「いいの!今から駅に行くわ、ありがとう!」


銘子が立ち去ろうとすると、

おっちゃんは銘子の腕をつかんだ。


「空港内にSNCFのカウンターがあるから

 そこで列車があるかどうか、確かめたら?」


そっか。ここで列車のチケットを手配出来るのか。

じゃあ…。

なぜかもちろん、おっちゃんも一緒について来る。


カウンター前に並んでいると、おっちゃんが銘子に聞く。


「結婚してるの?…子供は?」


面倒なので、銘子は結婚していることにした。

子供はいない、と答えた。

おっちゃんに同じように尋ねると、


「わし? わしは子供3人。

 で、旦那を日本に置いて一人で旅行?」


「そう。彼は仕事があって」


「ふ〜ん」


やっと銘子の番がきた。

今から手配出来るのは

『Gare Lyon(Paris) - Avignon(乗り換え) - Narbonne』

だった。


しかも、Gare Lyon を17:20に出て、

Narbonne に22:01に着くのだと云う。


今日中といえば、そうなるが…。

ともかくそれしかないと云うのでチケットを購入することにする。

118.80ユーロ。高いなあ。

でも、ホテルのキャンセル料と同程度なので、まあよしとする。


しかし問題は列車の時間まで5時間はあるということだ。


ともかく一旦落ち着いたので空港内のカフェで

お茶を飲むことにする。

喉がカラカラだ。

本当はビールを飲みたい口の銘子だが、

ここは何となく止めておいて

オレンジジュースにする。

おっちゃんも何となくコーヒーを頼んでいた。


「わし、Patrick(以下、パトちゃん)って云うねん。君は?」


「銘子です」


なぜかパトちゃんの目が♥ 黒ハート になっている。


「Meiko、…う〜ん、可愛い!」


気がつくと銘子の手にパトちゃんの手が重なっている。

苦笑いしながら手を引き抜く銘子。

銘子が結婚してようとしてまいと、フランス男には関係ない。


数時間前に、列に並んでいるときの世間話で

パリに友人がいないということを話してしまっていたので、

約束があると云ってその場を離れられないのだ。

飛行機の不安のあまり、少し気配りが足らなかったことを

銘子は後悔し始めていた。


「わし、飛行機作ってんねん」


飛行機の設計図というか出来上がり図のようなものを

見せてくれる。名刺には『代表者』とあった。

会社の経営者なのか?パトちゃんはToulouseとParisに

ある会社を行き来しているようだ。


こういうのを『出会い』というのであろうが、

銘子自身が何とも思わないのだから

進展しようにもしようがない。

パトちゃんはどんどん大胆になって銘子の髪をなでてくる。


頭をそらせてパトちゃんの手から逃げる銘子。


「そんなことしたら、奥さんに怒られるよ!」


「奥さん?わし、ずっと前に別れたも〜ん」


本当かどうか分からないが、奥さんとは別れて

パトちゃんは3人の子供と一緒に住んでいるという。


「わしの奥さんはいない、銘子の旦那さんは日本。

 二人だけの秘密にしようね!」


…何を秘密にしようというのだ!

秘密なこと、なんてしたくない!!


ぶるんぶるん!と首を横に振る銘子であった。

銘子にも好み、ってもんがある!


ともかく、今夜泊まるホテルに『到着が遅くなる』と

電池の残り少ない携帯で連絡だけは入れておく。


「で、ご飯どうする?」


パトちゃんが聞いて来た。


Narbonneに着くのが22時。

そこで店が開いているかどうかは全く分からない。

最悪夕食を抜くかパンを駅か列車内で買うとして、

昼はちゃんと食べておかなければならない。

まだ明るいし、お昼ご飯なら一緒に食べてもいいか、

と銘子は思った。

ここまで(時間があるにしても)つき合ってくれた

お礼もしたいし、とも思った。


「どこかで食べます?」


「うん、行こ行こ!」


ともかくOrlybusでまたもやDenfert-Rochereauに戻る。

隣に座ったパトちゃんがそれでなくても寄り添ってくるので

銘子は窓の外を眺めるしかなかった。


「何を…考えてるの?」


「え?」


「僕のこと?…うふ♪」


「私の日本のラブラブダーリンのこと!」


わざとらしくイジケた顔をするパトちゃん。


二人はDenfert-Rochereau駅前のカフェで

食事することになった。

銘子はやはり、あまり食欲がない。


「(何にするか)決めました?」


「うん。わし、このサラダにする」


サラダと云っても、フランスのサラダのボリュームは

食べたことがある人なら分かるだろう。

直径40センチ以上はある皿に

山盛りの野菜とハムや肉が乗っているのだ。


パトちゃんが選んだのはフォアグラと鴨肉の乗ったもの。

銘子はチキンの乗ったものを選んだ。


「ワインは飲める?」


「はい。グラス1杯くらいなら

(もっと飲めるくせに!嘘つき!)」


「何が好き?」


「任せます」


トイレに行って戻って来たら、パトちゃんはなぜか

赤ワインをボトルで頼んでいた。

飲み過ぎないように気をつけないと…

銘子は気を引き締めるのであった…。


フランスで食べる鶏肉は安いものであっても

ジューシーで美味しい。が、残念ながら

銘子には食欲がなかった。


「銘子のナイフとフォークの使い方、いいねぇ」


パトちゃんが目を細めて云う。

何でもかんでも褒める対象になっているのか?と

銘子は思ったが、そうでもないらしい。


「最近の若いのは、最初は右手でナイフを持ってても、

 すぐに右にフォークを持ち替えて

 食べ出すんや。これはあかんわぁ。

 でも銘子はちゃんとナイフとフォークで食べてるなぁ。

  うん。ええなぁ」


最近の若いものは箸もちゃんと持てない!

と嘆く日本のおじさん、おばさんしかり、

フランスでもそういうのがあるんだ、と銘子は妙に感心した。

が、素っ気なくこう云った。


「あ、そう?…だって私、左利きやもん!」


「うん。でもええねん♪」


パトちゃんは微笑んでいる。


ふと見ると、フォアグラはバクバク食べているのに、

鴨肉の脂(皮)を丁寧に切り取っている。


「何してるの?」


「わし、コレステロール溜まってるねん。

 薬もほら、食後に飲まなあかんし」


「でもフォアグラをさっきから食べてる…」


「あ、フォアグラはええねん。これは大丈夫!

 えっと…タバコ、吸ってもいい?」


そういえば、空港内で並んでいるときから

何度もタバコを吸いに列を離れていたっけ。


「一日にどれだけ吸うんですか?」


「えっと…一箱かな」


パトちゃんは薬を水ではなくワインで飲み、

タバコに火をつけた。

かなり、健康に対して矛盾したおっちゃんだ。


「えっと、これが一番上の子供で、次の子が…」


いつの間にかパトちゃんは財布から子供たちの写真を

取り出しては銘子に見せてくれる。

ずっと若いときに奥さんと別れたにしては、

(最近の写真だ、と云って見せてくれた)下の子が幼い。


なぜか自慢そうに自分の運転免許も見せてくれる。

20代くらいか、もっと若いパトちゃんがそこにいた。


フランスでは免許の書き換えがなく、

免許を取った時点での写真がず〜〜っと使えるとは

聞いていたが、本当にそうなのだ。

日本もそうすればいいのに。

3〜5年ごとに確実に老いているのを

確認させられるのだから!


「銘子の旦那さんの写真は?」


しまった〜〜〜っ!

仕方ないので、口からでまかせに

「日本人は家族の写真を持ち歩かないの!」

と云っておいた。


日本でも、結婚している人は持ち歩いているのだろうか???

本当のところを銘子は知らない。


清算のときになって、銘子が払おうとすると

パトちゃんはそれを制した。

先ほどのオレンジジュースも奢ってもらったし

これは今日つき合ってもらったお礼だからと

銘子が云っても聞いてくれない。


パトちゃん、ペッ!だった。


(『払う』というフランス語は payer といい、

  動詞の活用をすると

  Pato-chan paie.…パトちゃん、ペッ!となる。

  え? 最終的に『カトちゃん、ペッ!』に引っ掛けたくて

  Patrickをわざわざパトちゃんと呼んでたって?

  おほほ…)


手を握って来る、逃げる、

髪を撫でて来る、逃げる、

この攻防を続けながら何とか

Gare Lyonに着いた。


パトちゃんは一回でいいから

キスさせてくれと懇願する。

ホームで一回だけ、ほっぺにならいいよ、

と銘子は諦めて云った。


17時15分。あと5分で発車だ。

やっとパトちゃんから解放される。

酔狂にも、誘いに全く乗らない女に

丸一日つき合ってくれたパトちゃんはいい人だと思う。

無理矢理どこかに連れ込まれる危険だってあるんだし、

そう考えたら彼はいいおっちゃんだった。


ホームでパトちゃんは銘子を抱きしめた。

ほっぺにキスして、もう一方の頬にキスして、

また往復するのかと思ったら

方向がずれている!


危ない!


パトちゃん、本気でちゅ〜するつもりだ。


絶対に銘子はパトちゃんにそこまでは許せない。

必死に逃げて握手して列車に飛び乗った。


窓の外、ホームでパトちゃんがにこやかに手を振っている。

「月曜日、連絡待ってるよ!」


駅構内のカフェで、銘子がParisに戻って来る月曜日の

夕食を一緒にしようと無理矢理約束させられたのだ。

パトちゃんに悪いが、これ以上の誘いに乗ると

パトちゃんの思うつぼなので、銘子は勿論、

連絡するつもりはない。

ごめんね、パトちゃん。


そう思いながら銘子が手を振ると、

静かに列車は走り出した。


「はぁ〜。何て一日だったんだろう」


銘子は一刻も早くNarbonneのホテルに着きたかった。

髪にしっかりついたタバコの香りを

すぐにでもシャワーで洗い流したかったのである。


しかし、まだまだ銘子の長い一日は

終わらなかったのである!!

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2009年11月29日

フランス危機一髪! '07 <第二章>


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  第二章  銘子、危機一髪!

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その朝、銘子はベッドの中でまどろんでいた。


「もうそろそろ起きなきゃ…」

かすかに携帯の呼び出し音(マナーモードのバイブレーション)が

聞こえた。

「え?何か着信?」


今回は一人旅ということもあり、銘子はDoCoMoで携帯を

レンタルしていた。

すでに発売されている903i シリーズ以降のものであれば

そのまま自分の携帯を持って行けるのだが

銘子のは惜しくも902i だった。

(2007年のお話)

FOMAカードを入れ替えるといつもの銘子の携帯番号と

メイルアドレスで通信出来る。

(もちろん通信料金は違ってくるが)

一日105円、保険料一日105円、

つまり一日210円で借りられるのだ。

ちょっとでかくて不格好だけれども、レンタルだから仕方ない。

見ると、桐子からのメイルであった。

ちょうど銘子の滞在時期に夏時間から冬時間へと変更されるので

その注意をするように、という内容であった。

飛行機や列車の出発に間に合わなくなるので、これは銘子も

もちろん、しっかりチェックしていた。

先日買っておいたPAULのパンをかじりながら

『大丈夫だよ!』と返信し、しばらくテレビをぼ〜っと

眺めていた銘子はまた着信に気づいた。

また桐子からであった。

『もひとつ。今、France2(ニュース番組)見てたら

 エールフランス(飛行機会社)が大規模なストライキ

 やるみたいよ。

 よかったら銘子さんの便を調べるけど…』

慌てて返信する。

すぐに返事が来た。

『それ…欠航になってる…』

少しだけ血の気が引く。

桐子はともかくフランス語の教師である俊にその旨を

知らせてくれたらしく、すぐに彼からメイルが届く。

『今すぐに空港のチェックインカウンターに行って、

 飛んでいるどの便でもいいから

 振り替えて乗せてもらうよう交渉すること!』

銘子は腹を据えてしっかり化粧し、

荷物をまとめて部屋を出た。

まだ夜が明けきらない暗い中を、ホテル近くから地下鉄で2駅の

Denfert-Rochereau に向かう。

ここからOrly空港まで“Orlybus(オルリー・バス)”が出ているのだ。

勿論、銘子がこのバスを利用するのは初めてである。

この駅は地下鉄とSNCF(フランス国鉄)の駅が

それぞれ隣接しているのだが、銘子はSNCFの駅正面左側の

地下鉄出口から出て来た。

「えっと…バス停は…と」

キョロキョロする銘子に駅の壁際で寝ていたおっちゃんが

声をかけて来た。

「おねえちゃん、Orly行きのバス停探してんの?」


「あ、はい、そうです」

「それやったら、この信号渡ってまっすぐやで!」


「あ、そうですか、ありがとう!」

おっちゃんはニンマリ笑った。

まだ暗いのでその先にバス停があるのかよく見えない。

この際、出会う人みんなに聞いてみる。

向こうからおねえさんが歩いてくるので銘子は尋ねた。

彼女は銘子の今、来た道を指差す。


「えええ〜っ?反対方向ってか?」

すぐさま回れ右して、また次に来た老夫婦に尋ねる。


「あ。あれやで!」

おじいさんが指差したのはSNCFのDenfert-Rochereau駅正面に

停車中のバス!

「げ〜〜〜〜〜っ!」


銘子はダッシュする。

さっきのおっちゃんが騙したのだ。

朝一番のイジワル。

そんなことしたおっちゃんの一日がサイテーになりますように!

発車には間に合って、

何とか銘子は30分後にOrly空港に到着した。

さ、今から本腰入れなきゃ!

気合いを入れて出発口がある2階へと進んだ。

午前7時15分。どこがToulouse行きのカウンターなんだ???

尋ねる係の人も見当たらず、ぐるぐる回っていたら

それっぽい表示が見えた。

列の最後尾の若いおにいさんに聞くと、ビンゴ!そこだった。

そのままおにいさんの真後ろに並ぶ。

チェックイン・カウンターはどれも開いていない。

銘子の前には20人程の人が並んでいて、

最前列の人の前はロープが張ってある。

係の人もいない。交渉すら出来ないではないか。

一人の場合、そういうときに列を離れて周りの様子を見に行くことが

出来ない。列の最後尾に回っても仕方ないと諦めて列を離れるか、

荷物を取られてもいいと覚悟して荷物を列に置いたまま離れるか、

である。

まだ銘子はそのどちらも出来ずにそのまま並び続けた。

午前7時40分。アナウンスが流れる。

それでなくても聞き取りが出来ない銘子なのに、

マイクを通した声は割れていて何を云っているのか

全く聞き取れない。

アナウンスの合間、後ろにいたおっちゃん二人と雑談する。

「大丈夫や、ねえちゃん、いつかToulouseに行けるって!

 おっちゃんが約束するわ!」

「あかんねんて!私は今日中にToulouse経由でNarbonneまで

 行かなあかんねん!」

「お〜、そりゃそりゃ…」

「でも、この放送何云ってんのか聞き取られへん!

 私、フランス語がよう分からへんから…」

おっちゃん達に愚痴を云っても仕方ないのだが、

つい云ってしまう。


すると、その後から流れるアナウンスに耳を傾ける銘子に

真後ろのおっちゃんは、聞く必要がないものだと

「違う!関係ない!」


と知らせてくれるようになった。


ただ、その知らせ方が徐々に変わって来たのが気になったのだが。

最初は、後ろで

「違う!これはMarseille(マルセイユ)便の(アナウンス)!」と

云ってくれていただけなのに、徐々に、銘子の肘を引っ張って、

更に引き寄せて、顔を近づけて「違うよ」と云うようになったのだ。

確認できたらすぐにおっちゃんと距離を置くのだが、

列が長くなるにつれ、徐々に前と後ろの間隔が狭められてくる。

アナウンスがないのに、おっちゃんが銘子の肘を引く。

「フランス人の恋人が出来たら、フランス語上手になるよ♪」


「あっそ」


出来るだけ離れる。

待つこと2〜3時間、係のおねえさんが出て来て一言云った。

「本日のToulouse行きの便は一本もございません。

 お帰りください」

えええ〜〜〜〜っ!

混乱した銘子に文章が浮かぶはずがない。

「aucun?aucun???」

(全くないの?一便もないの???…のつもり)


後ろのおっちゃん達にただこの言葉を繰り返すと

「しゃあないなあ。今日はあかんわ」

と首をすくめていた。

でた〜〜〜〜っ!アクシデント。


銘子の旅程は、その日に飛行機でToulouseに向かい、

TGVでNarbonneへ、そこで一泊して

翌日にTGVでCarcassonneへ行ってそこでまた一泊して

翌日TGVでToulouseに戻って

飛行機でParisに戻るというものだった。

しかし、ストライキはその日から3日は続くと云われていた。

帰りの便もあやしい…。

どうしよう、混乱を避けてこのままParisに残るか?

もちろん、予約してあるNarbonneとCarcassonneの

ホテルの宿泊代はキャンセル料として取られてしまう、

しかもこれからParisのホテルを手配しなくてはならない。

思わず携帯を取り出してとにかく誰かに連絡を取ろうとして

…気づいた。

電池の残り時間がない!赤ランプが点灯している!

さらに追い討ちをかけるごとく、銘子は気づいた。

携帯の充電器をParisのホテル(3日後に戻る予定の)に

置いて来てしまっている!!

これから3日の間、日本との緊急連絡が取れなくなる!!

(まあ、公衆電話を使えばいいんだけどね)

とりあえず、携帯の電源を切り、電力を温存することにした。

銘子の顔から血の気がグングン引いて行く。

「さて、どうすんの?」

さっきから馴れ馴れしい方のおっちゃんが銘子に聞いて来た。

もう一人のおっちゃんはすでにそこにはいなかった。

「わしは火曜日までParisにいることにするけど、

 君はどうすんの?」


なぜかウインクしている。

ボツボツと周りの人がその場からいなくなっていく。


さあ、どうする?銘子!早く決めなければ!!


posted by 小池 紫 at 22:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行記

フランス危機一髪! '07 <第一章>

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   第一章  トイレに行きたいんやっ!  

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銘子の出発を祝うような?雨が降っていた。 午前6時だった。 
日頃の行いが良いからか、出発前日に生理が始まり、 その鈍痛で頭が全く働かない状態で 
深夜に始めた荷造りが終わったのは午前5時であった。 

「あと1時間は眠れる!」という思いと、 「今、寝入ってしまって寝過ごしたらシャレにならない!」
との 思いが交差したが、結局目覚まし時計を3個セットして ベッドに横になったのだ。

恨めしく雨を見ながら、食欲はなかったが冷凍してあった栗ごはんをチン! して
口に無理矢理押し込んで家を出た。

父の渉がマンション前で待ってくれていた。折からの雨。 
大きなスーツケースを押して歩くのには忍びないという親心で 
最寄り駅まで車で送ってくれるのだ。 
どうせだったら空港バスの発着所まで送ってくれたらいいのにな〜、 
というのはワガママなのでぐっと飲み込み、 これだけでも有り難いと思い直す銘子であった。  

バスは3カ所を回って客を拾ってから関西国際空港へと向かう。 
最後の停留所から乗り込んで来た若い女性二人が 銘子の真後ろに陣取った。  

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」  
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」  

中国語?…しかも朝から猛烈なハイテンション。 
ともかくでかい声で喋り続ける、続ける、続ける、続ける、続ける…。  

睡眠不足でテンションの低い銘子には、 
後ろから二人に座席を蹴り上げられているのと同様の“拷問”であった。 

その勢いは関空まであと少し、という泉大津まで続いた。  
バスの中に静寂が流れ出したのが泉佐野を越える頃であった。 
おいおい、空港はもうすぐそこではないか。  

急に日が射したかと思うと大粒の雨が窓を叩く奇妙な天気の中、 
バスはゆっくりと空港に入って行った。 さあ、いよいよである!  

まずはチェックインだ。 すでに手続きが始まっている。  

「お客様はどちらまで?」 
「パリです」 
「クラスは…」 
「ビジネスです」
「では、こちらへ」

おほん。
生まれて初めてのビジネスクラス!  

銘子が今回の旅行を決行したのは、今まで貯めに貯めたマイルが 
とうとうビジネスでの往復可能数にまで達したからである。 

エコノミーは8万マイルでパリー日本間を往復出来る。  
ビジネスでの往復は12万マイル。  
エールフランスVISAカードは100円につき1ポイントだから、 
ざっと計算して1,200万円使ったことになるが まさか、そんなに使ってはいない。  

数年前からエールフランスの搭乗マイルをちまちま貯め、 
そこへ普段のあらゆる支払い(ガス、、電気料金、もちろん酒の購入料金も)を 
マイルに投入した血と汗の結晶なのである。  

いつかは乗りたかったビジネスクラス。今日、まさにそれに乗れるのだ!! 
感慨に耽る銘子がふと前を見ると先にチェックインしている親子連れがいた。 
小学低学年っぽい男の子を連れた夫婦。 

銘子と同年齢か、もう少し若い夫婦。 家族3人でビジネス?…すっげ。  
40歳を越えてやっと初めてのビジネスに感動している銘子の前を 
小学生が当たり前の顔をして通り過ぎる。 何だか複雑…。  

ま、気を取り直して手荷物検査に向かい、そのままパスポートコントロール。 
免税店をいつも買うブランドのマスカラをまとめ買いして買い物は終了。 

手持ち無沙汰な銘子はチェックインの際にもらったクーポンを確かめてみる。 
「えっと…金剛…あ、ここだ!」 航空会社のラウンジがここにあるのだ。 
初めて入るこのラウンジ。聞いたところによると、ソフトドリンクはもとより、 
ワインもシャンパンも飲み放題とか!  

ワクワクで入ると、すでに満席。何じゃこら。遠慮のない視線を思い切り浴びる。 
いくら何でも立ち飲みはできない。 銘子はあきらめてそこを出た。  

しかたなしにそのまま搭乗口をめざす。 ふと見ると、カード会社のラウンジ発見。
席もある! でもここでは自販機だと¥250のスーパードライ350ml缶が 
¥500で売られている。 もちろんそんなの買わないもん。  
これから久しく飲めない緑茶を飲んでおく。 

今回はさすがにビールのアテのおかきは持ち出さなかった。 
そしていよいよ銘子は機上の人になるのだ!  

♪風の中のす〜ばる〜、砂の中のぎ〜んが〜♪ あ。それは地上の星か。 
で、銘子は機内に入った。わくわく♪ 

席につくなり『上着をお預かりします』と云われ、 学習通りに上着を渡す。  

昔、一緒に行ったツアーの帰り、オーバーブッキングのグレードアップで 
マグレでビジネスに乗った笑子が、 『着席時に上着を預かると云われる』と云っていたから、 
ちゃんとジャケットを着て行ったのだ。  

そういえば、彼女が 「エコノミー?あ、あれは奴隷船ね」 
等とほざいていた、あれが痛い程分かる。

何よ、この空間。ファーストクラスはいったいどうなっちゃうんだろう。 
ま、ファーストにはたぶん一生乗ることがないと思うので、 
このごちそうを満喫する銘子であった。  

席に着いて離陸前にウエルカムドリンクなのか、お盆を差し出された。 
金色の液体とオレンジ色の液体がある。反射的に金色のを取る。 
やた!…これ、シャンパン♪ うふ。と思った瞬間に銘子は尿意を覚えた。 

飛行機はやがて離陸した。水平飛行に入った。 で、銘子はトイレに立つ。  

ドアの前にはCAがいて、  

「あ。お客様、只今ベルト装着のサインがでておりまして、  
 気流の悪い地点を飛行中でございます 。 
 生憎ではございますが、お席にお戻りになってお待ちくださいませ」 と云う。  

渋々席に戻る。 そうは云うものの、行きたい。  

次に飲み物のサービスが始まった。 

行きたい。  

飲み物が何がいいか尋ねられる前にCAに聞いた。  

「すみません、トイレ…」 またもやにこやかに拒絶されて撃沈。 ううう…。 

トイレ!と思いながらシャンパンを注文してしまう銘子。


tkg'07-1.jpg


行けないと思うと余計に行きたい。


気分を紛らわせる為に、やめときゃいいのに銘子はシャンパンを口にする。

思いっきりの逆効果。

普段からトイレが近い銘子だけに徐々に緊迫した状態になる。


通路を行く、先ほどのCAと目が合うと


「まだ(サイン)消えないですね〜!」


と云ってくれる。が、それは気休めにしかならない。ううう…。


30分以上経過した頃には、銘子の顔はひきつっていた。

食事が配り始められた。


もう、ゲ・ン・カ・イ。


ワゴンが傍に来たとき、とうとう絞り出すような声で云った。

(たぶん、白目を剥きながら、と思う)


「すみません…緊、急、なんですが…」


CAは、“もう!仕方ないわね!”と半ば呆れながら云った。


「分かりました。今回に限り、乱気流でお客様に何かあっても

 お客様の自己責任、ってことで」


天井に頭をぶつけようが、骨を折ろうが、

ここでお漏らしをしたまま10時間いるのなら、

その方がマシ!とそのときは思えた。


数分後、地獄の苦しみから解放された銘子は前菜のフォアグラにかぶりついた。



tkg'07-2.jpg


赤ワインは Cotes du Rhone にした。

さすがにこのカトラリーは持ち帰れない。

メインはリヨン風牛フィレ肉のグリル、ハッシュブラウンポテト、野菜のソテー添え、である。



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(前菜は二種類から、メインは三種類から、ワインは四種類から選べる)


食事は決して特別に旨くはないが、ともかく前菜、メインと次々に陶器の皿でサービスされるのが嬉しい。

しかも各自、テーブルクロスまで敷かれる。チーズはブルーとカマンベールとハード系の3種類。

味はこれもいまいち。だが、エコノミーの6Pチーズのようなのとは格段に違う。



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デザートはタルト、ケーキ、シャーベット、フルーツの中からシャーベットを選択する。



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銘子は完全に“おのぼりさん”状態で、全ての食事を写真に納めた。

おのぼりさんついでに、ちょっとだけ暇そうにしていた、

先ほどのトイレの許可をくれたCAと目が合ったので呼んでみた。

ここで聞くのは一時の恥。知らずに間違って使うのは更に恥!と

思って勇気を出して尋ねる。


「すみません、あの、この前の座席の背面にある縦に並んだ穴は何ですか?」

「こちらは靴入れ、でございます」

「ほ〜。はるほど。脱いだ靴をここに入れたらいいんですね?…では、これは?」


質問大会である。

これで同じ機種の飛行機に乗ったときには恥をかかずにすむ、っていったいこの先、

いつ乗るのだろうか?ま、帰りに乗るのは確かであるが。


就寝準備に入りかけた銘子の視界にふと、特有の“揺れ”が目に入った。

出た!…大嫌いな貧乏揺すり!!


通路を挟んで座っている、C/IN時に見かけた親子連れの父親だ。

しかも今回のはまれにみる、バタフライ型。


座席を倒し、水平のベッド状になった座席上で両足の裏を合わせると

自然にひざが両端に開く。その開いた膝をパタパタするのだ。


ああ、たまらない。


銘子が空いていた窓側の席に移ったのは云うまでもない。

ついでにバーでビールを2本もらって飲みながらの読書。至福のときである。



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飛行機は気流の悪いところを何度も通過し、今までの飛行で一番多く揺れながら進路を行く。

そして無事にParisに到着。銘子は久しぶりにCDG空港敷地内のウサギを見た。


ウサギの巣穴も見えた。飛行機のエンジン音に驚いたようにぴょんぴょん跳ねる。

同じように天敵がいないとのことで、関空にはバッタが異常発生したそうだが

バッタよりもウサギの方が何だかのどかに思える。好みの問題ではあるが。


問題なく、TAXIに乗り、全て順調に進むかと思っていたら大間違いのコンコンチキで

雨の金曜の夕方6時。大渋滞であった。60ユーロ支払って降り立ったホテルでのC/INは

幸いなことに問題なく済んだ。


銘子は部屋に荷物を置いた後すぐに散歩がてらにGare Montparnasse(モンパルナス駅)へ

向かった。明日のToulouse-Narbonneの列車のチケットを買っておく為である。

翌日の朝、飛行機でParisからToulouseへ飛び、そこから列車で目的地のNarbonneへ

向かう予定なのである。


翌日以降のチケットを売っている窓口はどこか、と職員らしい黒人男性に尋ねると

「明日のチケットを今買うなんて早すぎるよ!明日買えよ!」とわめかれる。

諦めて次の職員らしき黒人男性に聞いて、何とか場所が分かり、チケット購入完了。



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駅構内のPaulで朝食用のサンドイッチも買い、全ての予定をクリアした銘子は、

ホテル近くのビール屋さんで夕食代わりのビールを飲むことにした。



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濃い〜栄養満点っぽいベルギービールを選んだ銘子は、金曜の夜の喧噪の中で

ぼんやりそれを飲むのだった。


「ああ、私は今、パリにいる」

実感が湧かないのでつぶやいてみる。

それでもなぜか実感が湧かない。


あとは寝るだけの開放感でいっぱいのはずなのに、

なぜか焦燥感に襲われる銘子。猛烈に落ち着かない。


仕方ないのでお店でのビールは一杯にしてホテルの3軒となりの中華総菜屋さんで

BADOIT(ガス入りのミネラルウォーター)と

1664(フランスのビール)を買って部屋に戻った。


熱いシャワーを浴びて、ビールを飲みながらざっくりと荷造りをした後、

やっとアルコールが効いてきて、銘子は電池が切れたように眠りに落ちた。


翌日に何が待ち受けているかを知りもしないで…。


posted by 小池 紫 at 18:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行記